【6月15日 東方新報】中国で今月1日から改正著作権法が施行された。海賊版が横行し、長年「コピー天国」と言われ続けた中国が変わることができるか注目されている。

 北京五輪が行われた2008年前後、中国では海賊版DVDが「花盛り」だった。欧米や日本、韓国の映画、ドラマ、音楽の違法コピーを販売する店が各地にあり、北京には日本人向けの店舗もあった。日本で放映されたドラマが翌週には1枚10元(約171円)程度のDVDとなって販売されたり、日本にも存在しない豪華パッケージの「宮崎駿(Hayao Miyazaki)DVD全集」「浜崎あゆみ(Ayumi Hamasaki)DVD全集」が販売されたりしていた。大きな声では言えないが、多くの日本人駐在員や家族が出入りし、海賊版の「恩恵」を受けていた。電器店街の路上では、日本のアダルトビデオをまとめたDVDをかばんに入れて売っている人もいた。

 中国各地の当局は摘発を繰り返し、押収したDVD数十万枚を粉砕機で破壊する光景がたびたびテレビで放映されていたが、「焼け石に水」の感もあった。

 2010年代になるとインターネットが「主戦場」となり、動画投稿サイトで海外の映画、ドラマ、音楽が次々とアップされるようになった。ビジネス目的だけでなく、「字幕組」と呼ばれる趣味のグループも登場。例えば、アイドルグループ「嵐」のファンたちが「嵐のメンバーのすばらしさを中国で広める」ため、中国語の字幕をつけて番組の海賊版を投稿するようになった。

 中国の映画・テレビ業界も同じ悩みを抱える。ショートビデオ投稿サイトの「抖音(Douyin)」や「快手(Kuaishou)」では、「大ヒット映画○○を5分で見る」「人気ドラマのハイライトシーン」などの投稿が数多くあり、無許可編集で収益を稼いでいる。著作権団体の調査によると、2019~2020年に違法の疑いがある投稿が1602万件確認され、著作権侵害率は92.9%に達していた。

 そうした現状に対応する今回の著作権法改正のポイントは、罰則の強化と著作権を保護する範囲の拡大だ。

 罰則の強化では、著作権侵害による法定賠償額の上限を50万元(約857万円)から500万元(約8573万円)に引き上げ、不当な利益に対する「懲罰的な賠償」も規定。さらに著作権の監督管理官庁が著作権侵害案件を差し止める権利を付与した。また、3月1日施行の改正刑法で著作権侵害に対する懲役刑の上限を引き上げた。違反行為に対する処罰と賠償が軽すぎ、野放しとなった状態を変えようとしている。

 著作権の保護範囲の拡大では、改正著作権法に「映画の撮影製作に類する方法で創作された著作物」や「著作物の特徴に合致する知的成果」などの規定を盛り込み、ショートビデオやオンラインゲームを著作権の対象とした。「抖音」や「快手」では、短時間のダンスやパフォーマンス、ライブ動画などの新たな表現が次々と生まれており、オリジナルの投稿は「作品」として保護されるようになった。オンラインゲームでは近年、「内容をパクられた」という訴訟が中国内で相次いでおり、著作権の対象になることを明確化した。

 中国は近年、ゲームや映像作品の輸出が増え、ソフトパワーで輸入から輸出する時代へとシフトしつつある。海外作品の海賊版ばかりが横行した時代と異なり、現在は中国の事情から著作権保護の必要性が高まってきた。AI技術や衛星ネットワーク、ナノテクノロジー(超微細技術)など最先端科学の分野でも輸出を強化しようとしている。著作権法改正は中国のソフト・ハードパワーを世界に広める後ろ盾の役割も担っている。(c)東方新報/AFPBB News