【6月8日 東方新報】中国が1組の夫婦に3人目の出産を認める決定をしたことで、多くの業界が新しい消費需要を見込んで色めき立っている。一方で、2016年に「1人っ子政策」を撤廃して2人目の出産を全面解禁しても出産数は減少していることから、「産みやすい環境を整えないと出産数は増えない」という指摘が多い。

 3人目の出産容認が決まった翌日の6月1日、マタニティー・ベビー用品大手の貝因美(Bein Mate)、金髪拉比(Jinfa Labi Maternity&Baby Articles)、愛嬰室(Babemax)などの株の銘柄がストップ高となった。生殖医療に取り組む企業や小児向け製薬会社の株価も急上昇した。

 中国の出産人口は減少傾向だが、過去10年間のマタニティー・ベビー市場の年間成長率は15%を超え、2020年の市場規模は4兆元(約68兆4396億円)超に。生殖医療の市場も成長しており、2023年の規模は496億元(約8487億円)と予想される。第3子容認により、さらなる市場の拡大が見込まれる。

 複数の経済アナリストは「第3子容認は多くの産業に恩恵を与える」と分析。自動車業界では7人乗りの多目的乗用車の販売が増え、観光業界では通常の旅行だけでなく親子キャンプや山荘暮らしなどの「大家族旅行」タイプの商品が増え、住宅では140平方メートル以上の大型住宅の需要が高まるなどと、各業界が「皮算用」を立てている。

 中国の2020年の出生人口は1200万人にとどまり、前年比18%もダウン。生産年齢人口は2013年をピークに減少に転じており、携帯電話や新車の販売台数はここ数年、前年を下回っている。総人口も早ければ2020年に減少に転じるといわれている。第3子容認は人口減を食い止め、経済の起爆剤になると期待されている。

 一方、著名な人口問題専門家で広東省(Guangdong)人口発展研究所所長の董玉整(Dong Yuzheng)氏は「中国では今後、出産適齢期の女性が毎年数百万人減少していく。第3子容認だけでは出産人口増加は見込みづらい」と指摘する。

 出産適齢期の女性にアンケートをすると、出産をためらう理由として「経済的負担が大きい」「子どもの世話をする人がいない」「家庭と仕事の両立が難しい」という回答が多い。共働きが常識の中国では出産後も大半の女性が働くが、出産後に賃金が下がった女性は34.3%に上り、そのうち4割強は賃金が半分以下となっている。

 また、公立幼稚園は全国的に不足しており、公立に通う園児の割合は1997年の95%から2019年は44%に低下した。受験戦争に勝ち残るため小学生から塾や家庭教師をつけるのも常識で、1人の子どもが高校卒業までにかかる費用は北京市や上海市で250万元(約4277万円)という試算もある。中国人口学会の翟振武(Di Zhenwu)会長は「公立幼稚園を増設して0〜3歳児の保育率を上げ、保育費を削減し、所得税から教育費を控除するなど、子育てにかかる直接的なコストを削減する必要がある」と指摘する。

 中国では1年間育児休暇を取る女性は少数派で、男性の育児休暇制度も整っていない。欧米や日本に比べ、圧倒的に遅れているのが実情だ。エコノミストの任哲平(Ren Zheping)氏は「育休制度を推進する企業に政府が免税などのインセンティブを与えるべきだ」とし、さらに「両親が婚姻していない非嫡出子にも平等な権利を与える」と踏み込んだ提言をしている。

 中国では今年に入り、「産児制限が一気に撤廃されるのでは」という見立てもあったが、「3人目まで」とあくまで制限は維持された。「3人目までOKなら事実上の制限撤廃に近い」という見方もあるだろうが、実はこの差は大きい。中国では1人っ子政策の時代、2人目以上を産んだ家庭から重い罰金を徴収し、重要な財源とする地方政府は多かった。計画出産・産児制限を呼びかける行政部門の権限は強く、その既得権が残ることになる。また、「1人っ子政策を徹底しなければ、他の業績が良くても評価しない」と役人の出世にもっとも影響した時期があり、強制的に中絶手術や不妊手術を受けさせられた女性が全国にいる。「子どもを複数産むことイコール悪いこと」というような時代が半世紀も続き、その意識をすぐさま変えるのは難しい面がある。国が本気で出生人口を増やしたいなら、産児制限を完全撤廃し、過去と「決別」する姿勢を明確にする必要がある。(c)東方新報/AFPBB News