【6月27日 AFP】英スコットランド西部の小さな漁村インベリー(Inverie)には、英国最果てのパブ「オールド・フォージ(Old Forge)」がある。

 人口わずか90人のインベリーは、手付かずの自然が残る最後の場所だ。船に30分乗るか、冒険好きならハイランド(Highlands)地方の岩だらけの28キロほどの荒野を2日間かけてハイキングすればたどり着ける。

 インベリーに到着すると、1杯のビールに加え、雄大なスカイ(Skye)島に向かって広がるネビス(Nevis)湖の絶景が迎えてくれる。

 オールド・フォージは今、売却問題に揺れている。地元の人々は、これまでのようにシーズンごとにやって来る観光客に頼るのではなく、地元密着型の人々が集う場所へ回帰できるよう地元民による買収を目指している。

 住民のステファニー・ハリス(Stephanie Harris)さん(31)は、オールド・フォージについて「共同体の中心地となることができる。地元の人と観光客が出会い、一緒になる場所だ」とAFPに語った。

 地元住民は、今年初めにオールド・フォージを42万5000ポンド(約6600万円)で売りに出したベルギー人オーナー、ジャンピエール・ロビネ(Jean-Pierre Robinet)さんと売却をめぐりもめている。

 住民らはロビネさんが、地元に貢献せず、裕福な観光客を呼び込むことに熱心だと訴える。現在、オールド・フォージの食事は、田舎の昔ながらのパブというよりは、ロンドンのガストロパブのような価格と品ぞろえになっている。

 オールド・フォージは1880年に建てられた平屋で、ヘリコプターの発着場も備えている。だが、道路が開通してないインベリーの地元住民が、ヘリでの移動を最も必要とする厳しい冬の間、発着場は閉鎖されてしまう。

 一方、パブを10年近く前に購入したロビネさんは、こうした地元住民の主張を否定する。

 ロビネさんは、家庭の事情と欧州連合(EU)からの英国の離脱(ブレグジット、Brexit)が、パブ売却の後押しとなったと話す。

「私は欧州における団結、寛容、世界に開かれていることを重要視する価値観を大切にしている。もし、そのようにできるのなら、地元の人がパブを買い取り、その精神を守り続けるのは地元のコミュニティーにとって素晴らしいことだ」

 元シェフのロビネさんは、地場産の新鮮なシーフードやシカの肉を使うなどオールド・フォージで出す食事に力を入れてきた。

「飲み物だけではなく、食事も大事だということを理解して、地に足を着けた運営をしてくれる場合のみ、地元の人々がパブを購入するのは非常に良い考えだと思う」と警告した。

「また、自分の兄弟や姉妹、地元の人々を迎えるのと同じぐらい、観光客も温かく迎えることも重要だ」と強調した。(c)AFP/Stuart GRAHAM