【5月28日 AFP】冷え込みの激しいある夜、19歳のベラルーシ人男性が、国境警備隊の目をかわしながら、森を抜け、リトアニアへ脱出した。

 ベラルーシでは昨年8月に行われた大統領選で不正疑惑が浮上。大規模な抗議デモが起こったが、強権体制を敷くアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領は、反体制派の抑圧を続けている。

 多数のベラルーシ人が違法に国境を越え、欧州連合(EU)加盟国のリトアニアへ逃れている。この男性もその一人だ。

 男性は先月、リトアニア側へ入った数分後AFPに対し、「すごく安心した」と語った。「恐怖から逃れることができた」

 男性は警官にたたかれ悪化した膝の痛みに悩まされた上、コンパスが壊れていて「2度もベラルーシに戻りかけた」と話す。

 それでも、ベラルーシ側で車から降ろされてからわずか40分でリトアニアへたどり着くことができた。国境自体は、1歩またげば簡単に越えられるほどの溝でしかない。

 リトアニアの国境警備隊は、昨年8月から今年5月始めまでに37人のベラルーシ人が国境を不法に超えたことを確認している。

 リトアニア政府によると、同期に合法および不法に入国したベラルーシ人142人から難民申請を受けており、これまでに12人を認定した。

 さらにリトアニアは、「人道的回廊」を通じてベラルーシ人数百人を受け入れ、合法的に滞在できるよう6か月のビザ(査証)を発行している。

 ベラルーシでは昨年8月の大統領選後、ルカシェンコ氏が6期目の就任を宣言。これに反発する市民らによる異例の大規模抗議デモが続いた。

 デモ参加者数千人が拘束され、400人以上に長期刑が言い渡された。

■「すべてうまくいく」

 ルカシェンコ氏の対立候補だった野党指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ(Svetlana Tikhanovskaya)氏は選挙の数日後、リトアニアに亡命。新たに公正な選挙の実施を国際社会に訴えている。

 一方、1994年から政権を握るルカシェンコ氏は、ロシアの後ろ盾を得て、反体制派の抑圧を続けている。

 リトアニアに不法入国した53歳のベラルーシ人男性は、難民認定を受けることができた。ベラルーシでは、デモに参加したため捜査対象となっていたという。

「外国へ来てみて、全く異なる社会があることに気付いた。ここでは人々が自由だ」

 一方、19歳の男性はリトアニアへ入った数分後、パトカーで駆けつけた2人の国境警備隊に「どこから?」とロシア語で尋ねられた。

「ベラルーシからです。政治亡命を希望しています」と答えると、警備隊員は男性のパスポートを確認し、ボディーチェックをするとこう言った。「心配しないで。すべてうまくいく」 (c)AFP/Vidmantas Balkunas