【5月7日 AFP】新型コロナウイルスの感染が拡大しているパキスタンでは、学校や飲食店は閉鎖され、夕方になると商店にはシャッターが下ろされ、軍隊も動員されている。だが、夜になると各地のモスク(イスラム礼拝堂)には敬虔(けいけん)なイスラム教徒が集まり、祈りをささげている。

 隣国インドで新型ウイルスが猛威を振るっていることを受け、パキスタン当局は規制を強化し、イスラム教の断食月「ラマダン(Ramadan)」の終わりを祝う大祭「イード・アル・フィトル(Eid al-Fitr)」期間中の移動を禁じた。

 だが、当局は宗教的な集まりには目をつぶっている。極めて保守的なイスラム国家であるパキスタンでは、宗教行事の取り締まりは広く反発を招く恐れがあるためだ。

 パキスタンの新型ウイルスの累計感染者は84万人以上、死者は1万8500人に上っている。だが、検査数は限られ、医療体制は脆弱(ぜいじゃく)で、実際の数ははるかに多いとの懸念もある。

 政府は新型ウイルス対策を守るよう市民に懸命に呼び掛けてはいるものの、モスクはまるで別世界だ。

 ラワルピンディ(Rawalpindi)の歴史的モスク、マルカジ・ジャミア(Markazi Jamia)を管理するモウラナ・ムハンマド・イクバル・リズビ(Maulana Muhammad Iqbal Rizvi)師は、イスラム教徒はほとんど恐れておらず、インドと比較することは無意味だと話す。

 同師は、「われわれの祈りは違う」と主張。少なくとも自分が見ている限り、感染対策は取られていると強調した。

「彼らは神を信じていない。われわれはイスラム教徒だ」

 このような考えは社会の隅々まで浸透している。イムラン・カーン(Imran Khan)首相は6日、「インドでは人が道端で死んでいく。(中略)他国と比較すると、アラー(神)はわれわれにやさしい」と述べた。

 今週には各地で、シーア派(Shiite)のイマーム(宗教指導者)、アリ(Ali)を記念する祭事が行われた。

 首都イスラマバードで行われた行事では、最初は注意深くしていた人々も、興奮が高まるとマスクを外し、密集した状態で歌っていた。

 インドの医療専門家は、世界最悪の感染爆発を引き起こした大きな要因の一つとして、宗教行事を挙げている。

 パキスタン当局は、規制違反の証拠があるにもかかわらず、ガイドラインは守られていると主張している。

 宗教問題・異教徒間融和省の報道官は、「新型ウイルス感染対策ガイドラインが守られている場所が一つあるとすれば、それはモスクだ」と強調した。(c)AFP/David Stout and Zain Zaman Janjua