【4月28日 AFP】インドの首都ニューデリー南部にある小さな薬局で、新型コロナウイルスに感染した父親に与える貴重な治療薬をようやく手に入れたマニッシュ・アグルワール(Manish Aggarwal)さんは、安堵(あんど)と喜びの声を上げた。

 8時間にわたり並んだ末に買えたのは、抗ウイルス薬「レムデシビル」の推奨投与量である6回分のうち、2回分だけだった。それでもアグルワールさんは「やっと手に入れた!」と叫んだ。

 しかし、誰もがアグルワールさんのように幸運なわけではない。同じ列には、入院中の家族の治療薬を求め、100人余りが並んでいた。そのうち薬を買えたのは30人だけだ。

 この薬局は、レムデシビルを小売価格で販売している数少ない場所の一つ。店の前では、列に割り込もうとする人が出てもめ事が何度も発生。近くには群衆整理のために武装警官3人が配備された。

 インドはコロナ感染者の急増と深刻な医療物資不足に見舞われており、病院や火葬場は逼迫(ひっぱく)している。

 朝6時から待ち続けているビノド・クマール(Vinod Kumar)さんは疲れた様子で、「政府の失態のせいで、本来なら助かる人まで死んでいる」と嘆いた。

 日が暮れ薬局が店を閉めると、集まった人たちの中から泣き声が聞こえ始めた。その中には、入院中の父親のため、車で治療薬を探し回っている10代のきょうだい2人もいた。

 インドは世界最大の後発薬(ジェネリック)生産国で、「世界の薬局」とも言われるが、レムデシビルなどの抗ウイルス薬の供給は需要に追い付いていない。

 レムデシビルについては、医師の多くがコロナ治療に必須ではないと考えているが、各地の病院では処方が続けられている。

 供給不足から、患者の家族は薬を自力で入手するよう求められており、多くの人が闇市場に頼らざるを得ない状況となっている。レムデシビルは一般価格が1300~8000円だが、闇市場では少なくとも3万円、高いところでは15万円ほどで売られている。

 アグルワールさんはこの日、薬を手に入れられたが、それでも闘いは終わらない。父親の元に全6回分を届けるまで、あすも街に出てレムデシビルを探し回らなければならない。「患者は病院で苦しんでおり、私たちは路上で苦しんでいる」とアグルワールさんは語った。(c)AFP