■ジャガーにワニ、アナコンダ

 朝日の昇る方角を頼りに進みながら、かつて一度だけ受講したサバイバルコースで学んだことを記憶の底から引っ張り出した。

「水はあったが、食べ物がなかった。そして、肉食動物に対して丸腰だった」とセナさん。密林にはジャガーやワニ、アナコンダなどが生息していた。

 サルが食べている果物を選んで食べた。希少なシギダチョウの青い卵3個を巣から失敬したのが、38日間で唯一のタンパク源だった。両親やきょうだいに再会したいという一心で歩き続けた。

 アマゾン川本流に支流のタパジョス川(Tapajos River)が合流する地点にある小さな町サンタレン(Santarem)出身のセナさんは、「生粋のアマゾン人」を自負し、熱帯雨林を愛している。

 しかし、新型コロナウイルスの大流行により、密林を破壊し川を水銀で汚染する無数の違法金鉱の一つで働くしか選択肢がなくなってしまったとセナさんは話した。

 もともと総飛行時間2400時間のパイロットだったが、数年前に心機一転、地元で飲食店を始めた。ところが、新型コロナ対策で閉店を余儀なくされ、「何とかして金を稼がなければならなかった」という。「(違法鉱山でなど)絶対に働きたくなかったが、食べるためにはそれしかなかった」

■二度としない

 38日間でセナさんは28キロ歩き、体重は25キロ減った。遭難35日目、セナさんは捜索隊の飛行機の音が聞こえなくなってから初めて、人工的な音を耳にした。チェーンソーの音だった。

 セナさんは音のする方角へ向かい、ついに天然ブラジルナッツの採取拠点となっているキャンプ地にたどり着いた。人々は密林の奥から不意に現れたセナさんに驚きながらも、食事や清潔な着替えを用意し、セナさんの母親に無事を知らせてくれた。

 キャンプを取り仕切るマリア・ジョルジ・ドス・サントス・タバレス(Maria Jorge dos Santos Tavares)さんは、50年間ずっとアマゾンの森に暮らし、家族でブラジルナッツを採取・販売している。

 そんなアマゾンと「調和して」生きている一家に、アマゾンを破壊する人々のために働いていた自分が救われたという事実には意味があると、セナさんは考えている。

「一つ確かなことは、私は二度と違法採掘業者のために飛ぶことはないということだ」 (c)AFP/Valeria PACHECO