【3月18日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)によって併合されたオーストリアで1938年、ユダヤ人の所有者が格安で手放さざるを得なかったグスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の作品について、現在の所有者であるフランス政府が、元の持ち主の親族に返還すると発表した。

「樹下のバラ(Rose Bushes Under Trees)」と題されたこの絵画は、オーストリア人のクリムトが1904~05年ごろ制作。ロズリーヌ・バシュロ(Roselyne Bachelot)文化相は15日、この作品をホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)の犠牲者ノラ・シュティアスニー(Nora Stiasny)さんの親族に返還する方針を明らかにした。

 作品は、シュティアスニーさんのおじで、美術品収集家だったビクトル・ツッカーカンドル(Viktor Zuckerkandl)さんが1911年に購入。1938年、ナチス・ドイツがオーストリアを併合すると、ユダヤ人は経済から締め出され、シュティアスニーさんは同作をごく安い値段で売却せざるを得なくなった。

 シュティアスニーさんは1942年、夫と息子と共に死亡。ポーランドのイズビツァ(Izbica)のゲットー(強制隔離居住区)か、ベウジェツ(Belzec)強制収容所のどちらで亡くなったかは分かっていない。

 作品の来歴を知らないフランスは1980年、当時首都パリに開館間近だったオルセー美術館(Orsay Museum)の収蔵作品として、スイスの画商からこれを購入した。

 バシュロ文化相は、「今回の決定は言うまでもなく難しいものだった。同作はフランスが唯一所有するクリムト絵画であり、この傑作を国のコレクションから失うのだから」と認めた一方で、「略奪品の返還は喫緊の義務だ。国の名誉になる」と述べた。(c)AFP