【2月4日 AFP】1959年の冬、旧ソ連領ウラル山脈(Ural Mountains)で若い登山者9人が謎の死を遂げた。以後約60年にわたってこの事件は、宇宙人の関与から核実験の失敗まで数知れぬ仮説を生み、ロシア人の想像をかき立ててきた。

 いわゆる「ディアトロフ峠事件(Dyatlov Pass Incident)」だが、経験豊かな登山者一行の死因について、1月28日付の国際科学誌「コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロメント(Communications Earth and Environment)」に掲載された新たな調査報告は、自然現象によるものだという説を後押ししている。

 学生を中心とする登山グループの中に生存者はなく、遺体は凍った状態で雪深い一帯に散乱。中にはひどく傷ついたものもあった。ロシア当局は昨年、全員が雪崩で死亡したと断定したが、疑問は残ったままだった。

 今回の調査では、テントを張るために雪の斜面を削ったことや、強風によって雪が堆積したことなど、いくつもの要因が重なって遅発性の雪崩が発生し、テントの中にいた9人が氷点下25度の屋外に飛び出したことが示唆されている。

「この謎の事件には、決して説明できない部分がいくつか残る。生き残って証言する者がいなかったからだ」と論文の共著者、ジョアン・ゴーム(Johan Gaume)氏は語った。同氏はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)雪崩シミュレーション研究所(Snow Avalanche Simulation Laboratory)の所長だ。

 ■陰謀説

 1959年2月1日夜、イーゴリ・ディアトロフ(Igor Dyatlov)氏率いる登山グループが、ホラート・シャフイル(Kholat Syakhl)山の斜面で野営した。この山の名は「死の山」を意味する。

 夜半過ぎ、予期せぬ事態により一行はテントを切り裂き脱出。着の身着のまま、斜面を1キロ以上下った森を目指して逃げた。

 後に発見された遺体の中には、異様に変色したものや眼球がなくなっていたものがあった。また内部損傷があるのに外傷が見当たらない遺体もあった。男性1人の遺体からは高レベルの放射能が検出され、女性1人の遺体には舌がなかった。刑事事件として捜査が開始されたが、間もなく打ち切られた。

 1970年代まで機密とされたディアトロフ峠事件は、ロシア最大のミステリーの一つとして、数々の読み物やドキュメンタリー、長編映画の題材となった。

 数十年にわたり流布してきた諸説の中には、イエティ(Yeti)のような未確認生物による襲撃、秘密の兵器実験による爆発、ロケットの残骸の落下、果ては何らかの心理的な力に操られた殺し合いといった説まである。

 EPFL雪崩シミュレーション研究所のゴーム所長がこの話を初めて知ったのは2019年、ロシア当局の再調査決定についてある記者から連絡を受けたときだ。「本当に引かれるものがあった」とゴーム氏はAFPに語った。

 彼はスイス連邦工科大学チューリヒ校(ETH Zurich)の地質工学の教授で、科学捜査の経験を持つアレキザンダー・プツリン(Alexander Puzrin)氏と手を組んだ。