【1月7日 東方新報】中国共産党の歴史や革命の重要な舞台となった地を訪れる「紅色観光(レッドツーリズム)」が、中国各地で活発となっている。特に2021年は中国共産党創立100周年の節目で、政府は「聖地巡礼」の促進に力を入れている。新型コロナウイルスの影響で業績が落ち込んだ観光業界も、観光復活の起爆剤として期待している。

 建国の父・毛沢東(Mao Zedong)氏が1920年代終盤に武装闘争の根拠地とした江西省(Jiangxi)の井岡山市(Jinggangshan)。1931年、中国共産党が中華ソビエト共和国臨時政府を置いた江西省の瑞金市(Ruijin)。その瑞金から長征(大移動)する中、1935年に毛沢東氏が党の実権を握る会議が行われた貴州省(Guizhou)の遵義市(Zunyi)。そして長征の末、新たな革命の拠点となった陝西省(Shaanxi)の延安市(Yan’an)。こうした革命聖地には大型観光バスが次々と往来し、団体観光客が訪れている。

 当時の共産党や紅軍(人民解放軍の前身)の苦闘や活躍を説明する博物館を見学し、毛沢東氏や周恩来(Zhou Enlai)氏らが寝室と書斎を兼ねた狭くて粗末な部屋を間近で見るというのが典型的な観光パターン。コスプレのように紅軍服をまとい、敬礼をしたりモデルガンを構えたりして記念写真を撮ることも定番となっている。

 政府が紅色観光を提唱するようになったのは2004年。「農村から都市を包囲する」革命戦略だった共産党の革命聖地は都市から離れた農村部や山間部が多く、紅色観光はそうした地域の活性化や経済振興が主な狙いだった。愛国心の高揚につながる要素もあり、聖地巡礼の観光客は2004年の1億4000万人から2017年には13億2000万人に膨れあがった。例えば、わずか人口17万人の井岡山市には2019年に1900万人もの観光客が訪れ、観光収入は160億元(約2560億円)に達した。

 政府は全国各地に「紅色観光地」を指定し、全国で300か所に上る。ただ、ノスタルジーに浸りたいお年寄りの観光客などを除けば、共産党や政府機関、国営企業、学校などの団体が研修や社会見学で訪れるのが主流。それほど熱心に史跡を見ようとしない人も少なくない。一方で、地元の業者やガイドが観光客をひきつけようと、当時の指導者や紅軍の功績や苦労話を大げさに「盛る」ことをしたり、共産党の活躍に合わせて「天変地異が起きた」というエピソードをでっち上げたりすることが一部で横行するようになった。

 習近平(Xi Jinping)国家主席は共産党創立95周年の2016年7月に「紅色観光の本来の目的を見失ってはいけない」と指摘。文化観光部も「紅色観光で低俗な行為は厳に慎むべきだ」と呼びかけ、各地で「紅色観光ツアーガイド」の養成に力を入れている。観光地の金もうけ優先とならないよう、当時の歴史を教えるガイドを各地に配置する。

「革命聖地」側も新しい要素を取り入れている。人工知能(AI)ガイドや仮想現実(VR)機器などを投入し、観光客がただの「見学者」でなくその時代の「当事者」のような体験をできるツアーを企画。観光旅行サイトによると、最近は組織が派遣する団体客だけでなく若者層も増え、1980年代生まれ以降の観光客が全体の4割近くを占めるようになっている。

 2021年に入り、共産党創立100周年にちなんだ映画やテレビが続々と放映される。日本で大河ドラマの舞台に観光客が詰めかけるように、今年は各地の「革命聖地」により多くの観光客が訪れることが予想される。中国では新型コロナウイルスがおおむね抑制されているが、海外旅行は相変わらずできないため、国内観光が活発になっている。各地の「聖地」側は、革命史跡に加えて農村体験ツアーやご当地グルメ、民俗文化体験などのオプションをつけて観光客を呼び込もうとしている。(c)東方新報/AFPBB News