【12月26日 東方新報】中華人民共和国成立間もない当時の人民解放軍兵士で、中国人なら誰もが知っている雷鋒(Lei Feng)をたたえるキャンペーンが中国で行われている。急激な経済成長に伴い個人主義や拝金主義が広まっている中、「滅私奉公」の象徴といえる雷鋒を取り上げることで、国民の団結意識や道徳意識を高めようとしている。

 雷鋒の生誕80周年となる18日、遼寧省(Liaoning)撫順市(Fushun)の雷鋒大劇場で演劇「雷鋒」が上演された。1960年代に人民解放軍の劇団によって創作された演劇をリメークしたもので、「雷鋒は時代の模範であり、その精神は永遠である」というにテーマに、観客から大きな拍手喝采が起きた。

 雷鋒は1940年に湖南省(Hunan)の貧しい農家に生まれ、7歳で孤児となる。人民解放軍入隊後、昼は任務以上の仕事をこなし、夜は毛沢東思想の学習に打ち込んだ。休日も返上して奉仕活動や募金を行い、1962年に撫順市でトラック運転中の事故により、わずか21歳でこの世を去った。自己犠牲の精神と国家への忠誠心が評価され、毛沢東(Mao Zedong)主席によって1963年3月5日に「雷鋒同志に学ぼう」運動が始まった。新聞や教科書で盛んに用いられ、毎年3月5日は「雷鋒に学ぶ日」として学生たちが街頭の掃除や老人施設を慰問するなどのボランティア活動の日となっている。

 日本で言えば、かつて多くの小学校に銅像が建てられていた二宮金次郎(尊徳)がイメージとして近い雷鋒。ただ、時代によっては「古くさい」存在とみなされ、「雷鋒おじさんは3月にやってきて、4月にはいなくなる」とやゆされる時期もあった。

 そして中国政府は近年、あらためて雷鋒キャンペーンに力を入れている。習近平(Xi Jinping)国家主席は2018年9月に撫順市の雷鋒の墓を訪れ、隣接する雷鋒記念館を見学。「雷鋒に学んで積極的に奉仕活動に参加し、率先して社会的責任を負い、他人を思いやり、弱者を助け、実践的な行動で社会の進歩を促進しよう」と強調している。各地では、雷鋒と同じように無私の精神で奉仕活動に励む市民をたたえる活動も行われている。

 中国では市場経済化が進んだ1990年代前半も雷鋒キャンペーンが行われた。経済至上主義や個人主義の風潮が広まると、「私」に走る人びとを「公」に引き戻そうという意識も社会に強まり、そこで登場するのが雷鋒といえる。特に今年は新型コロナウイルスの拡大があり、さらに中国を取り巻く環境を見ると、米国との長引く政治・経済の対立がある。生きていれば80歳となる雷鋒は「永遠の模範青年」として、中国の民衆に団結を呼びかける役目を担っている。(c)東方新報/AFPBB News