【12月12日 東方新報】中国のペット医療産業の急拡大がめざましい。今やペット医院を開業するというと投資が殺到し、医療特需ともいうべき状況だが、同時に深刻なペット専門医不足やペット医療費の高騰、ペット医療廃棄物処理の安全性など、急速すぎる市場拡大に伴う新たな問題も起きている。

 中国ペット医療産業発展研究報告の統計数字によれば、中国のペット産業規模は2016年ですでに1220億元(約1兆9365億円)規模。2020年には2400億元(約3兆8096億円)をこえる規模になると予測されている。特に若い世代で犬や猫を飼う人が増えており、これに伴いペット医療産業はペットフード産業についでペット関連の二大核心産業とされている。

 国内のペット医療水準もレベルアップしており、歯科、心肺科、皮膚科、腫瘍科、眼科などと専門も細分化されている。人間用の医療設備を超えるようなCTやMRI設備を備えた病院も出現。2019年4月にはすでに1万5000のペット医院がある。

 北京で9つのペット医院チェーンを展開している九家ペット医院は2015年以来、ほぼ毎年2つずつの病院を開業。一つの病院におよそ200万元(約3175万円)前後を投資し、大病院のようなCTやMRI設備こそないが、超音波やレントゲン、血液検査設備などを備えている。2018年5月に、瑞派ペット医院は米ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)などから3.5億元(約55億5562万円)の戦略投資を受け業界の話題をさらった。

 北京で私営のペット医院が登場しはじめたのは1992年ごろ。この年が中国ペット医療産業元年とすると、その急速発展ぶりは目を見張るだろう。

 だが、ここにきて業界が直面しているいくつかの問題がある。一つは発展が急速過ぎて、ペット医療に使用する医薬品が不足していること。ペット用医薬品は7割が海外からの輸入品。産業として比較的新しいので国内企業の研究開発が追い付いていないのだ。今年9月に農業農村部は人用化学薬品のペット用転用をより簡素化、スピーディーにする指示を出して、中国のペット用医薬品国産化の遅れを補おうとしている。

 またペット専門医の不足も深刻だ。ペット医院従業者中、大学卒業以上の学歴がある人材は実は38.4%。専門知識不足で、誤診事故が起きているペット医院は少なくないという。

 中国農業大学(China Agricultural University)動物医院は毎日およそ300例の診療を行っているが、190人の医師看護師中、60%が修士、博士以上の学位を持っている。北京農学院(Beijing University Of Agriculture)を卒業後、日本獣医生命科学大学(Nippon Veterinary and Life Science University)への留学を経て、目下農業大動物医院腫瘍科の主任でもある李格賓(Li Gebin)医師は「産業発展には人材が必要だが、「高水準の専門医は量産できるものではなく、今や卒業していない学生ですら、病院が取りあう状況が発生している」と指摘する。

 こうしたペット用医薬品不足や、ペット専門医の少なさもあって、ペット医療の高額化に歯止めがかからない。例えばあるペット医院に8歳のダックスフントが頸椎(けいつい)と腰椎の手術を受けに来院したケースでは、検査、手術費用5万元(約79万円)、入院費用のデポジット1万元(約16万円)、そしてリハビリケアに一日2000元(約3万円)の費用が請求された。全部合わせるとおよそ7万元(約111万円)の費用が掛かったという。愛するペットの命には代えられない、とはいうものの、ペット医院ごとの同様の医療に関する価格差が大きく、果たしてこの値段が適切であるかどうかという議論もある。例えば猫の避妊手術について、あるペット医院では検査費3000〜4000元(約5万円〜6万円)、麻酔、手術費、術後ケア費に1万元以上、すべてもろもろあわせて2万元(約32万円)はかかるというが、別の医院ではすべて合わせて1000元(約1万5873円)という値段設定であったりする。

北京中聞法律事務所の李亜(Li Ya)弁護士は「獣医市場の料金は、地元の産業協会の指導価格に従い、もし違反問題があれば、地元の農業部門に通報するべきだ」と指摘している。

 また、ペット医院の急増が公共衛生の安全をそこなう隠れた要因になっているという指摘もある。浙江省(Zhejiang)寧波市(Ningbo)海曙区(Haishu)検察院は、ペット医院の汚水処理施設の監督検査を強化すべきであると指摘している。ペット診療機関で、ペットの遺体の取り扱いやペット医療廃棄物処理のプロセスについても規範化が求められている。

 おりしも新型コロナウイルス感染症がはびこっている中、ペットの猫や犬にも新型コロナウイルス検査で陽性反応がでている。このことで、ペット医療機関周辺の住民からも周辺の公衆衛生への影響に対する懸念がでていた。海曙区検察院によれば、海曙区だけでもペット診療機関は20以上あり、新型コロナウイルスまん延期間にどのような防疫措置をとったか、ペットからの感染防止状況がどのようであったか、ペット診療に伴う廃棄物排水、ペットの遺体に対する無害化措置などに疑問があるという。

 実際、ペット医療機関では、ペットの体を洗ったりふん便を清掃した排水について、無害化処理がされずに市政府の運営する下水にそのまま排水されたりしていた。また一部ペットの遺体については、飼い主が火葬処理に同意せず、遺体を持ち帰り、自分で処理する場合もあるという。こうしたペットの遺体が、生活区域に埋葬されれば、これは公共衛生安全に対する脅威になりうる、という。

 こうした問題に対応する関連の法整備、監督管理体制は完成しておらず、現状を行政部門が把握することもなかなかむつかしいという。

 中国ではすでに5600万世帯が犬や猫をペットとして飼い、魚や鳥、爬虫類をペットとして飼う人も含めれば7000万~8000万世帯がペットを飼っている。飼育頭数は犬が5000万匹、猫が4000万匹。生活水準が向上したものの、仕事や人間関係でのストレスが増えている若者がペットに癒しを求めているという背景があるが、ペット関連産業の発展は比較的野放図で、関連産業界の中には、金もうけに走りモラルやルールが後手に回っている部分もある。 (c)東方新報/AFPBB News