【11月25日 AFP】新型コロナウイルスの流行により過密状態の遺体安置所から、冷凍トラックに遺体を運搬する作業。米テキサス州エルパソ(El Paso)でこの作業に従事しているのは、受刑者らだ。

 このメキシコ国境の基地の街で、手袋、マスク、ゴーグル、防護服を着けた受刑者らは時給2ドル(約200円)で、検視局の外に駐車された数台の大型トレーラーに遺体を運搬する作業を担っている。

 エルパソ郡のリカルド・サマニエゴ(Ricardo Samaniego)判事は、地元テレビ局に「人員不足で支援もない場合、志願者がいれば、たとえ受刑者でも、それが残された選択肢だ」と語った。

■「全米一安全な都市」の今

 新型コロナウイルスの流行は米全土で余すところなく爆発的に広がっており、大小の都市に惨事をもたらしている。だが、メキシコ国境の基地の街で、平時ならば安全といわれるエルパソで保健サービスが崩壊寸前にある様子を目にして、人々はコロナ危機の恐ろしさを痛感した。

 住民約68万人のエルパソ市は、テキサス州の他の都市、ヒューストン(Houston)やサンアントニオ(San Antonio)、ダラス(Dallas)と比べると小さいが、新型コロナでは国内最大級の打撃を受けている。コロナ関連で入院しているテキサス州民の6人に1人は、エルパソで治療を受けている。

 1年前には全米で最も安全な都市とみなされていたエルパソは、今や新型コロナがもたらした恐怖と悲劇の物語であふれている。

■ズームで父をみとる

 11月中旬、銀行に勤めるトミー・サバラ(Tommy Zavala)さん(53)は、82歳の父親、トーマスさんをコロナで失った。呼吸器疾患があったトーマスさんは数か月前から妻のグアダルペさんとともに、最低限の買い物や病院へ行く以外、一切の社会的交流を断っていた。

「医師から突然、『あなたのお父さんには挿管が必要だった。意識がなかった』と言われました」とサバラさんは声を詰まらせながら語った。「私は『何を言っているんですか? つい昨日、父は全く元気でした。誓ってもいい』と言ったのです」

 父トーマスさんは家から道を隔てたところにある病院に入院したが、グアダルペさんは見舞いに行けず、居間の窓からじっと病棟を見つめるしかなかった。

 臨終の儀式の際には何とか司祭だけは病室に入れさせてもらえたが、家族はビデオ会議サービスの「ズーム(Zoom)」でそれを見守るしかなかった。今は、いつ遺体が帰されて葬儀が行えるのか分からない。