【12月6日 AFP】あるインド企業の広報担当幹部で、業界賞も受賞したことのあるスネハプー・パダバターンさん(35、仮名)は、出世の階段を駆け上がるべき人材だが、たった一つだけ問題があった。ヒンズー教の身分制度であるカーストで、パダバターンさんはダリット(Dalit)と呼ばれる最下層に属している。

 南部チェンナイ(Chennai)在住のパダバターンさんは、どこへ行っても付いて回る差別から逃れるために仕方なく転職を繰り返し、ストレス性の健康問題と闘っている。

 インドの人口13億人のうち6分の1を構成するダリットは、先祖代々社会的地位が低いために日ごろから暴力や虐待にさらされている。

 現大統領のラム・ナート・コビント(Ram Nath Kovind)氏やインド憲法起草者の故B・R・アンベードカル(B.R. Ambedkar)はダリットだが、今も企業社会にはカーストに付随する偏見がはびこっていると、研究者や人権活動家、企業の人事担当者らは明かす。

 何百年も続くカーストの弊害は、米シリコンバレー(Silicon Valley)にも及んでいる。米通信機器大手シスコシステムズ(Cisco Systems)はカーストに基づく差別があったとして、訴訟を起こされている。

 コミュニケーション学の修士号を持つパダバターンさんは2008年、国内で最も歴史あるコングロマリット(複合企業)の1社に入社。出世コースに乗ったように見えた。

 しかし、パダバターンさんがかつて「不可触民」といわれたダリットだと気付くや否や、上位カーストの同僚らによるあざけりが始まったという。

「インドはカーストと共に生きている。自分が気付くかどうかにかかわらず、カーストは誕生と同時に付いて回る」とパダバターンさんはAFPに語った。フォークを落としたことで先輩から「百姓」とからかわれ、伝統的に菜食主義が多い上位カースト、ブラフミン(バラモン)の同僚たちからは牛肉を食べることを非難された。