【11月18日 AFP】アンテロープ、一人ぼっちの人、手を取り合う家族──カンニカー・プルームジャイ(Kanniga Premjai)氏(40)の懐中電灯が洞窟を照らし、長い間その存在が知られていなかった壁画を照らし出す。タイの寄せ集め考古学チームが成し遂げた、驚くべき発見だった。

 カンニカー氏が所属する少人数の考古学チームは何か月も、首都バンコクから南西に4時間ほどのカオ・サムローイ・ヨート国立公園(Sam Roi Yot National Park)を徹底的に探索していた。レンジャーがマチェーテ(なた)を振り下ろし、いばらの茂みを切り開いた道を歩いた。

 約40か所の洞窟を調べたが、収穫はなかった。そうしてようやく、岩だらけの険しい崖を登ったところにある大洞窟を見つけたのだった。「壁画を見つけた時には、叫び声をあげた」とカンニカー氏。

 壁画は当初、黒ずんだ壁に紛れていたが、壁画探索用の携帯電話のアプリを使い慎重に調べると、壁画が浮かび上がった。「約2000~3000年前の、先史時代のものだった」とカンニカー氏。

 洞窟の壁画調査は苦労が多いトレッキングが求められるため、ただでさえ人員不足のタイ文化省芸術局(Department of Fine Arts)にとって人材確保はさらに困難な状況となっている。

「タムディン(土の洞窟)」の壁画はタイ最古のものではなかったが、サムローイ・ヨート周辺に先史時代の人々が暮らしていたというカンニカー氏の仮説を裏付けている。

 洞窟の探索はカンニカー氏の情熱だ。だが、20年近い考古学者としてのキャリアの中で今年初めて、洞窟探索に時間と資金をつぎ込むことができた。

 2016年に当局がサムローイ・ヨート周辺で行った大まかな調査で壁画が発見されたことが、公園内の調査が行われなかった場所を調べてみたいというカンニカー氏の思いを駆り立てた。

 東南アジアの考古学・美術を専門とするノエル・ヒダルゴ・タン(Noel Hidalgo Tan)氏は、壁画は約3000年前にこの地域に狩猟採集民が暮らしていたことを示唆する証拠だと指摘する。

 タン氏によると、狩猟採集民は当時、点々と移動しながら暮らしていたと考えられており、山でも暮らしたと思われる。当時タイ湾(Gulf of Thailand)の海岸線は現在よりも内陸に入っていたという。

 カンニカー氏は今でも、壁画を見つけるとぞくぞくするという。「壁画を見つけると宝物を見つけたような気分になる。考古学の魅力は決して退屈することがないことだ」

 映像は9月10日撮影。(c)AFP/Dene-Hern CHEN