【11月21日 AFP】死をもたらす疫病の世界的流行の最中でも、ウィーンの人々は死を真っすぐに見つめようとしている──オーストリアの首都にある「葬儀ミュージアム(Funeral Museum)」は、死者の追悼に関する初めての博物館だ。

 1967年にできたこの博物館は、有名なウィーン中央墓地(Central Cemetery)の葬儀場の真下にあり、ひつぎや死に装束、デスマスクなどが展示されている。

 来館した同市在住の70代の米国人男性は「おそらく多くの人が死を恐れているが、それは税金同様、避けられないこと。だから、物事は昔からそれほど変わっていないということを示すのは、良い考えだと思います」と語った。

 ウィーン中央墓地には、作曲家のルートウィヒ・ベートーベン(Ludwig Van Beethoven)やヨーゼフ・ハイドン(Joseph Haydn)が眠っている。ハイドンの頭蓋骨は1809年に医学生に盗まれたが、約150年後に取り戻され、再び埋葬された。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)の中でも、ベートーベンの生誕250周年を記念した企画展には多くの人が訪れている。ベートーベンの暮らしぶりがうかがえる展示に加え、デスマスクや葬儀に関連した品々ももちろん公開されている。

■コロナが死生観を見つめる機会に

 新型ウイルスの流行が常態化していることで、同博物館では休館するよりも、地元の人々が死を人生の一部として考える助けになれればと励みを感じているという。

 広報を担当するザーラ・ヒーアハッカー(Sarah Hierhacker)氏は「コロナのせいで人々は以前よりも、死が自分たちの人生にどのような意味を持つのか、どのように埋葬されたいのかを考えていると思います」と語った。

 ミュージアムショップでは、ブロック玩具のレゴ(Lego)に火葬場や霊きゅう車、骸骨などが入ったセットも販売されている。親の死などのトラウマを経験した子どものケアを専門とする心理療法士のミヒャエラ・トメック(Michaela Tomek)氏は、「確かに子どもたちには適した言葉を選ぶ必要がありますが、タブーにすることは恐怖や見捨てられたという気持ち生むので、はっきりと誠実に伝えることが肝心です」と語る。

■「霊きゅうトラム」

 他の場所と同じようにウィーンでも、誰もが新型ウイルスの流行を気にしている。ある来館者は、かつてウィーンを走った「霊きゅうトラム」がまた運行されるのだろうかとブラックジョークを口にした。

 ウィーンでは「スペイン風邪」と呼ばれた1918~1920年のインフルエンザ流行時には、多くの遺体が路面電車で直接、中央墓地に運び込まれた。1世紀たった今も、路面電車の71番線は同じルートを通る。これにちなみウィーンでは、死の婉曲(えんきょく)表現として「71番線に乗る」という言葉が生まれた。(c)AFP/Blaise GAUQUELIN