■「メンタリティーが変わらない限り、『脱はんこ』は無理」

 政府の推進は一部で実を結んでいる。警察庁は来年から行政手続きの押印を廃止する方針を決定。日立製作所(Hitachi)などの大企業も、社内の押印業務を廃止すると発表した。

 だが、日本企業と官公庁の膨大な書類手続きを合理化するのは一筋縄ではいかないとの見方もある。

 日本総研(Japan Research Institute)のマネジャー、渡邉敬之(Takayuki Watanabe)氏は、はんこ業務は日本の階級型ビジネス文化の表れだと指摘する。従業員が決裁をあおぐ際には直属の上司、さらにその上司と一人一人から承認印をもらわなければならないことが多く、そうして一番上の上司まで全員の押印がそろうことで組織的な合意形成がなされたことを示すというのだ。

 AFPの街の取材に、会計士のかたやまてつや(Tetsuya Katayama)氏も「自分で責任を負いたくない。だからどんどん押していくんですよね。(中略)『これはおれが押したけどその前におまえが押しているじゃないか。(だから)おまえの責任だ』って感じですよね」と答えた。

「責任者がいないんですよ、日本は」

 日本人のこのメンタリティーが変わらない限り、政府の「脱はんこ」方針は効率化につながらないと渡邉氏は指摘する。

「押印プロセスを変えなければ、結局同じ数だけ承認ボタンを押さないといけない。(中略)手段が紙のはんこから電子システム上の承認ボタンに変わるだけで結局同じことが起きる」と同氏は言う。

「物事の責任の所在を(はっきりさせて)ある程度覚悟を決めて承認をしてもらう」ことが必要だと話す。

 全日本印章業協会の副会長、福島恵一(Keiichi Fukushima)氏は、押印制度を一律に廃止していこうとする動きには反対だ。その一方で、今までは慣習ありきで、はんこを押すことそのものが形骸化していた部分もあると話す。

 押印が必要な書類が正確に明示されれば、はんこの持つ「自分の意志を表明する」という使い方がより明確化する。そうすれば、押印文化の本来の意義が伝わる良い機会になるはずだと語った。(c)AFP/Harumi OZAWA