【10月22日 AFP】ほんの数週間前まで、アリアクサンドラ・ヘラシメニア(Aliaksandra Herasimenia)さんは輝かしいキャリアを過ごして引退したベラルーシの元競泳選手だった。しかし今、隣国リトアニアへの脱出を強いられた彼女は、強権的な政府に異を唱える母国のアスリートの支援団体を率いている。

 東京五輪まで1年を切る中で、ベラルーシではアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領を批判した選手が代表から追放され、抗議デモに参加して逮捕される選手も現れている。ヘラシメニアさんは、これまでに10選手が逮捕され、20人以上が国内での練習を禁じられて金銭的な支援を必要としているとみている。

 リトアニアの首都ビリニュスにあるベラルーシの民主主義活動家のオフィスで、AFPのインタビューに応じたヘラシメニアさんは、「私たちは金銭的なサポートを行い、練習場所も探します」と話した。ロンドン五輪リオデジャネイロ五輪の両方でメダルを獲得している彼女は、弾圧に声を上げれば五輪出場の夢がかなわなくなるリスクもあるという、母国選手のジレンマをよく分かっている。

「非常に難しい状況です。五輪はスポーツ選手にとって最大の大会だから、私たちは選ばなくてはなりません」「自分の結果と自分の声、どちらが重要かを」

 中には政府支持を表明する選手もいて、それが固い絆で結ばれたはずの国内スポーツ界にほころびを生んでいる。ヘラシメニアさんは、国際オリンピック委員会(IOC)には、ルカシェンコ大統領がトップを務めるベラルーシの五輪委員会の資格を停止し、母国の選手が中立の立場で五輪に出られるようにしてほしいと考えている。

 34歳のヘラシメニアさんは、さまざまな大会での優勝経験を持つ同じ競泳選手のヤウエン・ツルキン(Yauhen Tsurkin)さんと結婚し、娘を出産した後の2019年に現役を引退。ベラルーシでは子ども向けのスイミングスクールを営んでいたが、抗議デモに参加した大物スポーツ関係者が複数逮捕されたことを受け、10月に入ってリトアニアへ脱出した。

「国際レベルで私たちを代表する組織が必要だということが分かりましたし、誰かが団体を代表して、個人的に相手方と面会しなくてはなりません」「ここビリニュスでは、母国にいるよりもいろいろなことができます」

 ヘラシメニアさんは、リトアニアから練習場所の提供を打診されていることを明かし、他の国にも同じような連帯を示してほしいと訴えた。そして、ベラルーシで次に何が起こるかは大統領とその戦略に大きく左右されると考えていると述べ、「真実と誠実さが勝つと信じています」と話した。(c)AFP/Vaidotas Beniusis