【10月24日 東方新報】中国で「浪費は恥、節約は栄誉」のスローガンとともに「食べ残し禁止令」が打ち出されているなか、福建省(Fujian)ではケンタッキーフライドチキン(KFC)・フードバンクの第一号店がスタートした。ケンタッキーで売れ残って本来廃棄するフライドチキンなどを無料で市民に提供する自動受け取りスタンドが設置されたのだった。

 こうした取り組みは実は、中国ではこれが初めてではなく、上海ではすでに大規模なフードバンクネットワークが存在する。上海緑洲公益発展センターという慈善団体による中国初の緑洲フードバンクだ。2015年に浦東(Pudong)塘橋に中国初の社区型(地域住宅区型)フードバンクとして始まった。

 フードバンクとは、食べ物を貯蔵し、貧しい人々のために食べ物を再分配するというのが本来の意味である。今は、食品を生産、販売するプロセスで賞味期限間近なもの、あるいは余剰の食品を必要な人に無料で分け与え、食糧の無駄を回避するシステムとして世界中で運用されている。

 緑洲フードバンクの支店の一つの周家嘴家庭支援センターでは、午前8時半ごろ、玉ねぎ、ピーマン、なつめ、なすなどの野菜をいっぱいにのせたトラックが上海虹関路からドイツのスーパーチェーンのアルディ(Aldi)からやってくる。ここは2018年4月に正式運営が開始され、今年8月末まで、上海のスーパーチェーンの環球超市など6社の企業から品質保証期限間近の食品1万8587件をのべ8795人に支給してきた。最近は生鮮食品スーパーマーケットの盒馬鮮生(Hema Xiansheng)宝地店とアルディの2社も毎日野菜と果物を提供される。

 このあたりの住人のうち、生活困難家庭の20人が毎日、こうした野菜を受け取りにくるという。午後4時半になってまだ食品があまっていたら、近くの環境衛生署にもっていき、そこで働く50人近い労働者に受け取ってもらう。このフードバンクは毎日およそ100品の食品が放出されているという。

 食品生産企業、飲食店、スーパーなどで出てくる品質保証期限を過ぎた食品は、これまでは食品安全法にもとづき、廃棄しなければならなかった。

「一部の食品は品質保証期限をすぎても、味や食感が悪くなるが、食べても安全なものがある。これらも廃棄処分になっている。」フードバンクの責任者でもある上海緑洲公益発展センターのプロジェクトの鄭英女(Zheng Yingnv)総監督は指摘する。果物、野菜などは実際、品質保証期限などなく、見た目が悪くなってスーパーで廃棄扱いになる果物、野菜の多くが新鮮で食べられるものだという。

 スーパーなど店舗が本来処分する食品で、地域住民の必要なものを提供するというフードバンクが運営するロジックは実にシンプルだ。「フードバンクは一種の橋渡しです。食品の浪費と食品の不足の間に、協調とバランスの作用を起こすのです。そうすることで社会全体の食品浪費が大幅に減ります」と、上海緑州公益の創始者、李冰は言う。

 世界で最初にフードバンクが誕生したのは1967年、アメリカのアリゾナ州、セントマリーフードバンクという。その目的は、余った食品を集めて、必要な人に再分配することだった。こののち、フードバンクは米国、欧州、日本に、一連の成熟した運営メカニズムと寄付文化をひろげていった。しかし、中国内でフードバンクができはじめたころは、あまりかみ合わないところもあった。

 例えば、本当に生活に困った人にとって、人の食べ残しをもらうことは、「ものもらい」同然だと恥ずかしく思う人がいる一方で、さほど家計に困っていなくても、けちで食品をただでとっていく人もいる。フードバンクが本当に必要な人に食品を支給できず、その機能が十分に発揮できない時期もあったという。

 また寄付した食品の安全性や責任についての明確な法律はまだ中国にはない。中国の食品安全法は「品質保証期限を過ぎた食品の再販売を禁じる」「品質保証期限を過ぎた食品は焼却、廃棄か家畜の飼料としての循環利用」といったことが決められているだけだ。

 こうした法律もあって、寄付する側も、品質保証期限直前のものを寄付することは、企業や店の名声に傷がつくという考えもあった。寄付は慈善行為であり、新鮮でよりよい品質のものを提供するからこその慈善活動だという発想だ。だが、これはフードバンクの初心とは合致していない。

 だが長年の模索を経て、緑洲フードバンクは、スーパーや生産工場など寄付側が食物を自己検査し、第三者として公益組織の食品の検査を経て、養老院や社区側の受け取りサイドがさらに自己検査するという、三段階式の安全検査を導入し、こうした安全問題を解決。

 さらには、近年はブロックチェーン技術を使い、膨大な食品情報データベースを作り、日々更新して、品質保証期限管理を徹底しているという。

 また自動販売機のような食品自動受取機を設置しているところもある。機械が身分証を読み取り、必要な食品のボタンを押すと、食品が出てくる一種の自動販売機だ。この方法だと、群衆の受け取り状況が記録でき、生活困難者に食品がいきわたっているかどうかもチェックできる。重複支給を回避し、本当に必要な人のところへ食品がいくようになっている、という。

 2018年に上海緑洲公益発展センターは世界フードバンクネットワークに加盟。このネットワークに加盟すると、世界各地の企業から資金、物資、技術などの支援を受けることができる。上海緑洲公益発展センターのフードバンクプロジェクトは、これまでに700万トンの食品(およそ3000万元<約4億7333万円>相当)の無駄を回避し、のべ76万人を支援し、248機関の支援を受けてきた。フードバンクとの協力協議に調印した企業は全国202社にのぼっているという。米国発のフードバンク文化は、中国の独自の分化や価値観に適応しながらすそ野を広げていっている。(c)東方新報/AFPBB News