■テレビは悪

 メキシコのメノー派は、16世紀欧州の宗教改革の中で派生した厳格な保守的プロテスタント教徒の末裔(まつえい)だ。その祖先は迫害を逃れてドイツやオランダからロシアに渡り、さらにカナダへ、そして1920年代にメキシコに移住した。

 メキシコの他の地域との接触が少ない証しの一つとして、彼らはほとんどスペイン語を話さない。母語は低地ドイツ語だ。

 一部のメノー派の人々にとって、現在のチワワ州はもはや十分に孤立した場所とは言えなくなっている。メキシコ政府が地域初の送電線を設置すると、村のほぼ半数にあたる100世帯ほどがエルサビナルを捨てて南東部のカンペチェ(Campeche)州に向かった。

 最近結婚したばかりのフアン・ジョンソン(Juan Jhonson)さん(21)のような村の若者は、彼らと行動を共にする資金もないが、付いて行きたいとも考えていない。「僕は引っ越さない。カンペチェ州に行って土地を買う金はない」。そして「行きたいとも思わない」と語った。

 ジョンソンさんは、馬車には木製の車輪しか使ってはいけないという、より保守的な村人の信仰には従わない。「タイヤが欲しい。彼らから見れば、タイヤは間違ったものだ」。だけど「僕はタイヤは移動の役に立つと思う」。

 ぽつぽつとながら電力供給が始まったことで、共同体の生活スタイルは変化しつつある。村でゴム製タイヤを付けた馬車を目にすることも珍しくなくなった。小型トラックやトラクター、エンジンを付けた改造馬車を使う住人もいる。

 それでも近代的なぜいたく品の数々は、この村にとってまだ遠い存在だ。村の男性ハコボさん(20)は「テレビに何を求めるんだ? テレビは悪だ。でもタイヤはOKだ。速く移動できるから」と語った。(c)AFP/Herika Martinez