【11月15日 AFP】ロシア・シベリア(Siberia)のトムスク(Tomsk)市に点在する優美な木造住宅は、人々に愛されている歴史的建造物だ。だが修繕せずに長年放置されたため、荒廃し、今や一部は取り壊しに直面している。

 この街のシンボル的な建築物は、窓枠や屋根に精緻な木彫装飾が施されており、丹精込めて造り上げられた色鮮やかな外観を今なお誇っている。しかしながら、その多くは空き家になっているように見える。

 これらの住宅は、ロシア国内での木造建築の最高例でもある。にもかかわらず、トムスクの歴史家らは、木造住宅群の未来は不確かだという。住宅群を保存する必要性は差し迫っているが、政府の支援は追いついていない。その上、一等地の不動産には商業的関心が向けられている。

 歴史家のセルゲイ・マリツェフ(Sergei Maltsev)氏(46)はAFPの取材に、木造住宅群の多くがこれほど長い間存続しているのは、住民らがただ「すでにあった建物に住むしかなかったからだ」と語った。

 マリツェフ氏によると、人口57万5000人のトムスクには歴史的住宅が約2000棟あるが、国の歴史的遺産として保存されているのは100棟足らずだ。

 首都モスクワの東約2900キロに位置するトムスクはシベリアで最も古い都市の一つで、1604年にトム川(Tom River)沿いに築かれた。20世紀初頭は、アジアに向かう商人らが行き交う輸送の主要中心地だった。

 1910年代、トムスクは地域の中心都市の座を、ノボニコラエフスク(Novonikolaevsk)と呼ばれる村に明け渡した。約265キロ南西に位置するこの村が、シベリア鉄道(Trans-Siberian Railway)の停車駅の予定地となったからだ。

 この村は後にノボシビルスク(Novosibirsk)と改名される。現在、ノボシビルスクはロシア第3の都市で、コンクリートブロックでできた旧ソ連様式の壮大なビル群がひしめく大規模な産業中心地となっている。

 トムスク市内には2016年、木造住宅を取り壊せないようにするために歴史的保存区域が設けられた。

 さらに2019年にはウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)ロシア大統領が自らが、地方政府に保存の取り組み強化を指示したにもかかわらず、計画は遅々として進展していない。

 歴史的建造物を保護できるのは「政治的意思」だけだと、歴史家のマリツェフ氏は考えている。その一例が、モスクワの北東に位置するボルガ川(Volga River)沿いの町プリョス(Plyos)で、現在、修復活動が進行中だ。

 プリョスにはロシア前大統領のドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)氏が不動産を所有しているとされる。「残念ながら、大物政治家にトムスク出身は一人もいない」と、マリツェフ氏は冗談を飛ばした。(c)AFP/Romain COLAS