【10月10日 AFP】ロシア・モスクワの北西約200キロに位置する都市トベリ(Tver)にある「プロレタルカ」は、かつては、労働者向けのモデル住宅として設計された赤れんが造りのおしゃれな集合住宅だった。だが1世紀を経た今、ここでは住民たちが極貧生活を送っている。

 集合住宅が建設されたのは、帝政ロシア時代末期の1858〜1913年。トベリ市内のこの地区は、綿織物工場の労働者約1万5000人が住む一つの街だった。

 当時のロシアは綿産業が盛んで、裕福な起業家が経営する工場で、新興の都会風の労働者が色彩豊かなプリント生地の製造にいそしんでいた。

 1917年にソビエト政権が樹立してからは、工場はトベリ・プロレタリア大製造工場(Tver Big Proletarian Manufactory)と改名され、ロシア語で「プロレタルカ(Proletarka)」と略称された。最盛期には、商店や図書館、病院、二つの水泳プール、劇場、そして展望台までもがあり、生活に必要な設備を備えた共同体だった。

 だがロシア全域で設立された共同住宅の多くがそうだったように、1991年にソ連が崩壊してからは、プロレタルカは労働者の楽園ではなくなってしまった。

 この集合住宅に40年間住んでいる年金生活者(62)は、「ここには数百人が住んでおり、1部屋に5人で住んでいる世帯も多い。壁にはかびが生え、配管はさびて水漏れしている」と話す。

 トイレは共同で、仕切りは薄っぺらいシャワーカーテン。天井はかびで黒くなっている。子どもらは、家族で住む狭いワンルームを出て、長い廊下を遊び場にしている。

「恐ろしい状態にある」と、プロレタルカを案内して地元の歴史や遺産を説明しながらドミトリー・グルズコフ(Dmitry Gruzdkov)氏は話した。ロシアで文化的な重要性を持つ場所としてリストに入れられ、同地区を再生する10年計画はあるものの、実行に移されたことはないという。トベリ市の年次予算の2倍の費用がかかるためだ。