【10月5日 AFP】英仏海峡を渡って英国に流入する非正規移民の急増に頭を悩ませている英政府が、難民申請者らを南大西洋の孤島セントヘレナ(Saint Helena)島などに収容する案を検討していると英メディアが報じ、物議を醸している。

 英国ではこの夏、フランスからゴムボートで海峡を渡って入国を試みる移民が急増した。英当局者は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い英仏間を結ぶトラックやフェリーの便数が減少し、これまでの密航ルートを利用する機会が失われたことが一因とみている。英警察によると、英国を目指す移民たちの必死の思いにつけ込んだ犯罪組織が、高額の密航費用と引き換えに危険な航海をあっせんしているという。

 プリティ・パテル(Priti Patel)内相は先に移民の流入を止めると宣言していたが、BBCによれば先月の上陸者数は過去最高を記録した。

 こうした中、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は1日、政府が英本土から約6400キロ以上離れた南大西洋に浮かぶ英領の火山島アセンション(Ascension)島とセントヘレナ島に収容施設を設置する案を検討していると報じた。いずれも、首都ロンドンより南アフリカのケープタウンやブラジルのリオデジャネイロ(Rio de Janeiro)に近い絶海の孤島だ。

■英紙報道、移民阻止案あの手この手

 FTはまた、人工的に波を発生させるポンプを取り付けた船を複数、英仏海峡に配備して、移民の乗ったゴムボートをフランス側の海域に押し戻す案も政府内で検討されたと伝えた。さらに、船をたくさん並べて海峡上に「壁」をつくり、ゴムボートの行く手を遮るという案も出たという。

 一方、英紙タイムズ(Times)は、建造40年の既に引退した大型旅客船をイタリアから600万ポンド(約8億円)で購入し、沖合に停泊させて客室141室に最大1400人の移民を収容する案や、北海(North Sea)にある閉鎖された石油プラットホームに移民を送る案も検討されていると報道。

 大衆紙デーリー・メール(Daily Mail)は、移民収容施設をイングランド南部沖のワイト島(Isle of Wight)やスコットランド北東部沖のシェトランド諸島(Shetland Islands)、アイリッシュ海(Irish Sea)のマン島(Isle of Man)に設置する可能性もあると伝えた。

 政府は、実際にどんな案が議論されたのか具体的な説明は避けたが、「不法移民と難民に関する政策や法律の改定計画を進めている」ことは認めた。

 野党政治家や人権団体は、検討が報じられた案はいずれも「良心に照らして受け入れ難く」「見るに堪えない」と非難。一方、研究者らは経費がかかりすぎ非現実的だと指摘している。

 英労働党の「影の内相」ニック・トマスシモンズ(Nick Thomas-Symonds)氏は、与党・保守党が移民問題をめぐる「環境をどれだけ悪化させたかを示す、恥ずべき事例」だと批判。政府はカリブ系移民の子孫を不法滞在者扱いした「ウィンドラッシュ(Windrush)」スキャンダルから「何も学んでいない」と述べた。

 英国では2年前、1950~60年代にカリブ海地域の英領(当時)から合法的に移住した「ウィンドラッシュ世代」と呼ばれる移民の子孫たちが誤って不法移民とみなされ、強制退去を迫られたり身柄を拘束されたりしていたことが発覚し、政府を揺るがすスキャンダルとなった。(c)AFP/Martine PAUWELS, Joe JACKSON