【10月4日 AFP】フランス人オペラ歌手のクロエ・ブリオ(Chloe Briot)さん(32)が、昨年の舞台本番中に受けたセクハラ被害を告発し、性的虐待に関するオペラ業界の「沈黙のおきて」を破った。

 ブリオさんは昨年10月、パリのオペラ・コミック座(Opera Comique)で上演された新作オペラの舞台で、ラブシーンの最中にフランス人のバリトン歌手から何度も性的に体を触られたと告発した。リハーサルでも同じことをされ、やめるよう本人に警告していたという。

 ブリオさんは当初、波風を起こして「作品全体をめちゃくちゃにしてしまう」ことを避けて公にしなかったが、ツアーが終わると、共演者から性的被害を受けたことを警察に届け出た。さらに今年8月には、フランスのオペラ批評メディアで被害を公表した。一方、相手はブリオさんの主張を否定し、名誉毀損(きそん)の訴えを起こしている。

 9月にAFPのインタビューに応じたブリオさんは後から、発言内容を公開しないでほしいと連絡してきた。

 ブリオさんは、フランスのオペラ界の性暴力を訴えた数少ない歌手の一人。性的ハラスメントへの抗議は「キャリアにとって自殺行為」になり得る、と同業者が口をそろえるのがこの業界だ。

 匿名で取材に応じた30代の別のフランス人ソプラノ歌手は、ブリオさんはキャリアを失うリスクを覚悟して告発したと話す。「クロエ・ブリオは、とても勇気のある行動を起こしたけれど、彼女のことが心配。一種の自殺行為だから」

 スペインの世界的オペラ歌手プラシド・ドミンゴ(Placido Domingo)氏や、米ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(Metropolitan Opera)の音楽監督を務めていた著名指揮者ジェームズ・レバイン(James Levine)氏といった大御所が相次いでセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)行為を糾弾されたにもかかわらず、フランスのオペラ界やクラシック音楽界ではセクハラ告発運動「#MeToo(私も)」の動きは広がっていない。

■若手を待つ「性的虐待の地雷原」

 さらに別の女性歌手は15歳のときに音楽教師からセクハラを受け、そのことを他の女性歌手に明かすと、それも「私たちの仕事の一部」だと言われたという。

 女性の音楽家らは、特に若手の頃は、性的虐待の地雷原を通り抜けることを余儀なくされる。

 だが、「それは非常にあいまいだ」とこの女性歌手は指摘した。「若いときは、自分に興味を持たれるとうれしくなる」もので、相手が男性の大物歌手や演出家であればなおさらだという。

「指揮者に『君は歌がうまいし、美人だね。音楽祭に参加するんだが、君は私に優しくしてくれるだけでいいから』と言われることもある」「(若手の歌手なら)影響力を持つ人を遠ざけるリスクは冒したがらないだろう」

 匿名で取材に応じたこの歌手は、ほとんどの男性の同業者、「特に若い世代の男性たち」は最大限の敬意をもって接してくれていると話すが、業界の問題は解消されていない。