【9月12日 AFP】米カリフォルニア州に住むルベン・ナバレテ(Ruben Navarrete)君(14)は、背後に山火事の炎が迫り来る中、夜間に狭く急な坂道を下るというとんでもない方法で車の運転を習得した。ミスは許されず、ただ集中し、道の脇にある絶壁と炎は無視しなければならなかった。

 ルベン君がおじのジョシュア・スミス(Joshua Smith)さんとその妻、ジェイミー・スミス(Jamie Smith)さんと共に暮らす先住民居留地コールドスプリングスランチェリア(Cold Springs Rancheria)は現在、山火事「クリーク・ファイア(Creek Fire)」に見舞われている。

 一家には避難の可能性に備える期間が2日間あり、スミスさん夫婦はこの短期間でルベン君に運転の基礎を教えた。おじのジョシュアさんはルベン君に「テレビゲームと同じだ」と教えたという。

 一家は7日深夜、ついに運命の知らせを受けた。火の手が近づいているため、直ちに避難する必要があった。

 ルベン君のおじ、おば、車いすのきょうだい、年下のいとこ3人が、3台の車に分かれて乗り込んだ。おばのジェイミーさんが運転するSUVが先頭を走り、助手席にきょうだいを乗せたルベン君の車がそれに続き、最後尾はフロントライトが故障したピックアップトラックを運転するおじのジョシュアさんが走った。

 避難先の同州クロービス(Clovis)のホテルでAFPの取材に応じたルベン君は、「僕が運転しなければならないとなったとき、本当に緊張して怖かった」と語った。

 車3台のすぐ後ろには炎が迫っていたが、ルベン君は「とても集中していたので、見たくなかった。事故を起こしたくなかった」と回想。だが窓の外を見ると、「本当に大きくて急な山」があったと語った。計30キロ余りの移動距離のうち、半分ほどで運転が楽になり始めたという。

 おばのジェイミーさんは、自宅がどうなったかや、置き去りにせざるをえなかった2匹の犬については口にしないよう努めている。ジェイミーさんとジョシュアさんは今も自宅の被害状況を把握できていない。

 ジェイミーさんはルベン君の運転の習得について「短期集中の特訓だった。それまでは家から4分の1マイル(約400メートル)ほどしか運転したことがなかったんだから」と笑った。

「全員にとって本当に神経がすり減る経験だった」 (c)AFP/Javier TOVAR