■IT業界を非難するトランプ陣営

「改変メディアの大部分を用いているのはトランプ陣営で、それは言うなれば、自分たちがねつ造している主張のより『目に見える』証拠をつくろうとしているからだ。なぜかと言えば、実際の証拠がないからだ」と指摘するのは、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)ハスマン・スクール・オブ・ジャーナリズム・アンド・メディア(Hussman School of Journalism and Media)のシャノン・マクレガー(Shannon McGregor)助教だ。

 トランプ陣営は、バイデン氏の動画に対する姿勢はダブルスタンダード(二重基準)だとして、IT系企業を非難している。

 トランプ陣営の全国広報副責任者を務めるサマンサ・ゼーガー(Samantha Zager)氏は「大手IT系企業はバイデン氏の手の内にあるが、シリコンバレー(Silicon Valley)に集うリベラル派のベイエリア・エリートたちは、改変メディアをどう定義するかとなると、あからさまに一方の肩を持つ」と批判する。

 しかし、政治プロセスにおけるソーシャルメディアの役割を研究するノースカロライナ大のマクレガー氏は、今回のトランプ陣営のメディア戦略について、異なる有権者層を引きつけようとするよりも、むしろ「論調は二極化的傾向を増しており、トランプ氏の支持基盤を掘り下げ、投票を促そうとしているようだ」とみる。

 その一例が、米西部オレゴン州ポートランド(Portland)でトランプ氏の支持者であるアーロン・ダニエルソン(Aaron Danielson)さん(39)が射殺された後の8月30日、トランプ氏の長男ドナルド・トランプ・ジュニア(Donald Trump Jr)氏がフェイスブックにあげた投稿だ。

 トランプ・ジュニア氏は「警告、恐怖:アンティファ(Antifa)はトランプ支持者を標的とし、処刑する」というコメントとともに1本の動画を投稿。78万回以上視聴され、約5万件の「いいね」を獲得した。

 ダニエルソンさんを射殺した容疑者は、反ファシズム運動「アンティファ」の支持者だったとされているが、9月3日夜、身柄を拘束しようとした警察によって射殺された。