■感染歴がない成人3分の1に同族コロナウイルスのT細胞

 英科学誌ネイチャー(Nature)で7月29日に発表されたこの研究は、新型コロナウイルスへの感染歴がない成人の少なくとも3分の1にこの種のT細胞が存在することを明らかにしている。

 ティール教授は、AFPの取材に「これは過去に風土性コロナウイルスに感染したときのものに由来する可能性が最も高い」と語った。

 だが、この種のT細胞の存在が必然的に免疫を意味するかどうかを解明するには、研究を重ねる必要があると、ティール教授は注意を促した。

 ティール教授らの研究に先立ち、シンガポールの研究チームは7月、同様の結論に達した論文をネイチャー誌に発表。また、米国の研究チームが8月4日の米科学誌サイエンス(Science)に発表した別の論文は、新型コロナウイルスと、風邪を引き起こすコロナウイルスの両方に反応するT細胞を多数発見したと述べている。

 論文の共同執筆者で、米ラホヤ免疫研究所(La Jolla Institute for Immunology)のダニエラ・ワイスコフ(Daniela Weiskopf)氏は、「この研究結果は、感染症の症状が他より軽度の人もいれば重度の症状を示す人もいる理由の説明になるかもしれない」と述べている。

 ワイスコフ氏らの研究は、同じチームが5月に米医学誌セル(Cell)で発表した研究に基づいている。この研究では、新型コロナウイルスに反応するT細胞が、新型コロナウイルス感染歴のない人のグループの40~60%で検出された。

■「T細胞をめぐる議論の大半はまだ仮説」

 現在、開発が進められている新型コロナウイルスのワクチンは、抗体による免疫とT細胞による免疫という両タイプの免疫応答の誘発を目指すものだ。

 スウェーデンのカロリンスカ大学病院(Karolinska University Hospital)で行われた最近の研究は、新型コロナウイルスの無症状と軽症の感染者の多くが、たとえ抗体検査が陰性でも、新型コロナウイルスへのT細胞免疫反応を示すことを明らかにしている。

 だが、仏パリのピティエサルペトリエール病院(Pitie-Salpetriere Hospital)のヨナタン・フロイント(Yonathan Freund)教授(救急医療学)は、現在のところT細胞をめぐる議論は大半が「仮説」にすぎないと強調した。

 また、新型コロナウイルスの感染対策に何らかの影響を与えるようになるまでには、大規模かつ徹底的な調査研究を実施する必要があると、科学者らは強く訴えている。(c)AFP/Paul RICARD