【8月28日 AFP】フランス人のミカエル・モワセフ(Michael Moisseeff)氏は、宇宙服を着たこともなければ、宇宙船で飛行した経験もない。しかし、そうしたことが地球の外の世界を想像し「再現」する上で妨げになることはないという。

 モワセフ氏は、地球上にあるさまざまなにおいを調べ、再現する取り組みを長年続けてきた66歳の「香りの彫刻家」だ。彼が次の目標として設定したのは、地球の衛星、月のにおいを捉えることだという。

 熟練した遺伝学者のモワセフ氏は自身の実験室で、においの謎を分析し、ありとあらゆる種類のにおいや芳香、分子からの発散物などを作り出すというライフワークに取り組んでいる。

「例えば、森の下草のにおいを再現したいのであれば、まずその場所に行く必要がある」と、モワセフ氏は説明する。

「そこにコケや地衣類は生えているのか、湿気はあるのかと一つ一つ丁寧に調べ、においのリストを作って要素をまとめる。画家がパレットに色を置くのと同じだ。そして、各要素の測定を行い、できる限り詳細に再現を試みる」

 残念なことに、月は下草のある森ほど簡単に行ける場所ではない。仏トゥールーズ(Toulouse)にある宇宙のテーマパーク「シテ・ド・レスパス(Cite de l'Espace)」は「月旅行の費用を出したがらなかった」と、モワセフ氏は冗談を言った。

 モワセフ氏の重要な研究道具である自分の嗅覚の中に月のにおいのイメージを構築する唯一の方法は、月面を歩いたさまざまな宇宙飛行士、特に1969年に初めてそれを成し遂げた米宇宙飛行士ニール・アームストロング(Neil Armstrong)氏が残した記述を読み込むことだった。

「月面には酸素がないため、彼(アームストロング氏)が何のにおいもかげなかったのは明らかだが、着陸船の中に戻った時に、宇宙服に付着している塵(ちり)のにおいが、古い6連発拳銃の焦げた黒色火薬を思い起こさせたようだ」と、モワセフ氏は話した。