■現代の錬金術師?

 このにおいを再現するため、モワセフ氏は片手鍋の中で黒色火薬に着火してみることにした。そして何度か失敗を繰り返した後、ついに火薬の焦げたにおいを「捉える」ことに成功した。

 現代の錬金術師ともいえるモワセフ氏は、探し求めているにおいの種類を突き止めると、そのにおいを作り出すのに適切な香調(香りのタイプ)を見つける作業に取りかかった。

 すると、金属のような香調と炭素と硫黄の香調とが混ざり合い、鼻孔と想像がくすぐられた。

■「個人の感覚」

 人間には約260種類のにおいセンサー(嗅覚受容体)があると言われている。このセンサーは、鼻腔(びこう)の上部にある嗅覚器の嗅粘膜(きゅうねんまく)に位置している。

「嗅粘膜にあるセンサーに分子が到達すると、体内で感覚を引き起こす信号が生成され、においが発生する」と、モワセフ氏は説明する。

「この感覚は完全に個人的なもので、各個人の遺伝的特徴と経験によって決まる」

 モワセフ氏は次の挑戦で、ルネサンス(Renaissance)期のにおいに挑む。イタリアの芸術家レオナルド・ダビンチ(Leonardo da Vinci)の絵画でモデルとなったモナリザ(Mona Lisa)本人、もしくは彼女の周囲のにおいの再現を試みるのだという。

 この取り組みには「きめ細かな調査と史実研究」が必要になると、モワセフ氏は興奮気味に語っている。(c)AFP/Marisol RIFAI