■限界

 サイーダ・ムマーニ(Sayeda Mumani)さん(68)は半世紀に及ぶエキストラとしてのキャリアで、1970年代の二枚目俳優ラジェーシュ・カンナー(Rajesh Khanna)さんからスーパースターのシャー・ルク・カーン(Shah Rukh Khan)さんまで、実質的にほぼすべての著名な俳優と共演している。

 稼ぎのいい月では、ムマーニさんは約1万4000ルピー(約2万円)をかき集めることができた。しかし撮影が中止となったことで収入は干上がってしまい、最近は何か月も仕事がない。

 ただ、業界との契約がほとんどないシャイクさんのような若者と違い、主要製作スタジオと長い付き合いのあるムマーニさんは、トップ俳優のアミターブ・バッチャン(Amitabh Bachchan)さんやサルマン・カーン(Salman Khan)さんから食べ物や現金といった、ささやかな援助が期待できる。

 それでも、医療費や生活費はどんどん積み重なり、10万ルピー(約14万3000円)にまで借金が膨れ上がると、個人の断続的な気前の良さに頼ることには限界があるとムマーニさんは気が付いた。

■セーフティーネットの欠落

 数十億ドルの収益を上げているにもかかわらず、世界で最も利益性の高いこの映画業界には、その中の最も弱い立場の人たちを守るすべが確立されていない。

 業界で働く数万人の大多数は、医療保険や年金へのアクセスもない。

 ロックダウン中に自身の製作会社の従業員に給料を払い、他の製作スタッフに対しても経済的支援を行った映画監督のアヌバブ・シンハー(Anubhav Sinha)氏は、セーフティーネット(安全策)の欠如は、映画業界の労働力の大半がフリーランスであるという事実を反映していると述べた。

「私の従業員は…映画製作に必要な人員の10%にとどまる。残りの90%はフリーランスで、製作時に集まり、また去っていく」とシンハー氏はAFPに語った。

 インドでシネ&テレビアーティスト協会(Cine & TV Artists AssociationCINTAA)の上級協会員を務めるアミット・ベヘル(Amit Behl)氏は、人が密集する場面の撮影禁止、製作スタッフや俳優など65人以上の雇用の禁止を含む新たな規制によってこの状況がさらに悪化し、ムマーニさんのような労働者が将来を恐れるようになるとさらに警告する。

 そして、ムマーニさん本人も「このままではもう無理」と述べ、「死んでしまいそう」と涙ながらに訴えた。(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY / Udita JHUNJHUNWALA