【8月5日 東方新報】中国で、企業の商業秘密の侵犯や知財権侵害をより厳格に取り締まるため刑法および中国刑事訴訟法の修正案が先月末に全人代常務委員会に提出された。

 この修正法案が可決修正されれば、中国市場における企業のよりフェアな競争環境が整備されると期待が寄せられている。

 市場経済が発展するにつれて、企業の社員や開発研究員の転職も当たり前になってきているが、そこで問題となっているのが、離職する幹部職、研究職による企業の核心技術や顧客情報の持ち去りである。なかには、開発チームごと引き抜いてライバル社に転職したりするケースも。

 こうした問題は単に、企業単体の競争力を弱めるだけでなく、市場の健全な発展環境も阻害することになると懸念されている。こうした危険性を予防するため、中国では昨年、不正競争防止法を改正し、商業秘密侵犯に関する法規定を充実させようとしている。先月末には刑法の関連条項の改正案の第十一草案が提出された。

 中国の刑法には1997年以来、商業秘密侵害に関する条文があるが、商業秘密侵犯は一向に食い止められていない。こうした背景について、中国人民大学(Renmin University of China)法学院の劉俊海(Liu Junhai)教授は、法を犯すコストが低いこと、違法行為による収益率が高く、知財権保護にかかる費用が高いわりに、その恩恵が低い、という問題点のほかに、行政管理監督と司法の在り方に抜け穴や盲点があることが重要な原因だと指摘している。

 このことから早急に刑法の関連規定の見直しが必要とされていた。今年導入された民法典には、もちろん商業秘密侵犯や知財権保護に関する規定はあるが、民法はあくまで企業が被った損失の補償問題を解決するための法的根拠であり、商業秘密侵犯を根絶するためには刑法による罰則強化が重要だという。

 劉教授は「市場経済の発展プロセスは四本の法律の牙、すなわち民事責任、刑事責任、行政責任、信用制裁なしにはあり得ない。民事と刑事同時に法的責任を追及することで、さらに企業の商業秘密をよりよく守ることができ、知財権を保護できるのだ」と訴える。

 2019年に全人代常務委員会では、すでに不当競争防止法の改正を行い、商業秘密について新たな定義を設け、商業秘密侵犯の主体範囲を拡大し、市場監督管理部門の商業秘密保護方面の法的責任を強化した。今回、それに連動する形で刑法も相応の調整を行い、商業秘密侵犯関連の法的体系をより完璧にするという。

 現行法では、例えば商業秘密侵犯の定義として、第219条「権利者が重大な損失を被る」といった表現になっており、司法の実践において、損失のあるなし、損失がどこにあるか、どのくらい大きいのかを査定することは容易ではなく、数値に置き換えて罪を確定することが極めて困難だったという。

 例えば、盗まれた技術が、まだ正式に生産に投入されておらず、何の製品も生み出していない場合、それは具体的にどのぐらいの損失に当たるのか。権利者と侵害者が同時に、その技術を使って製品を製造、販売した場合、権利者が受ける影響はどの程度と算定されるのか。一般に、権利者製品の独占的ライセンス譲渡額を被害額として算定することが慣例とされているが、これは法律のいう「権利者が重大な損失を被る」という表現に合致しない、と清華大学(Tsinghua University)法学院の周光権(Zhou Guangquan)教授は指摘する。

 こうした状況から、修正案では、「権利者が重大な損失を被る」という「損失」という表現を「深刻な状況」に変えた。こうすれば、被害額の算定はできなくても、侵害行為自体が悪質で深刻であると判断されれば、刑事罰に問うことができる。

 次に、修正案では、コンピューターシステムへの侵入、ハッキングなど新しい商業秘密の違法入手手段を条文中で明確にした。

 また、商業秘密の概念について、「一般に知られておらず、商業価値があり、権利者が適切な秘密保持措置を講じている技術情報、経営情報、ビジネス情報」と広くした。この改正は、2019年の不正競争防止法改正の内容とリンクしている。

 さらに商業機密侵犯の法定刑をこれまでの3年以上7年以下から3年以上10年以下に変更し、厳罰化した。

 こうした改正案については、8月23日までにパブリックコメントが募集され、全人代常務委員会審議に反映される。(c)東方新報/AFPBB News