【7月25日 東方新報】中国の貴州省(Guizhou)規律検査当局によれば、貴州茅台酒集団(Kweichow Moutai Group)傘下の貴州茅台酒株式有限公司(Kweichow Moutai)元副社長の張家斉(Zhang Jiaqi)、茅台学院(Moutai Institute)元副院長の李明燦(Li Mingcan)がこのほど相次いで規律違反の疑いで取り調べを受けている。

 2019年5月に貴州茅台酒集団の元党副書記でもあった袁仁国(Yuan Renguo)元会長が党中央規律検査委員会による「双規」(党内調査)を受けて後、現在に至るまで少なくとも13人の幹部が汚職容疑で失脚、「茅台酒幹部集団腐敗事件」の全容が明らかになりつつある。貴州の名酒であり、中国を代表する白酒ブランドである茅台酒。今年「ブランドZ世界で最も価値のあるブランドTop100」で18位と、世界酒類ブランドの中で唯一トップ20に入り、株価も急上昇している香り高い銘酒の製造企業内部はひどい腐敗臭を放っている。その根源と背景には何があるのか。

 2020年年初、国営中国中央テレビ(CCTV)が官僚腐敗取り締まり宣伝用に作ったドキュメンタリー番組『国家監察』で、貴州省の元党委常務委員で元副省長の王暁光(Wang Xiaoguang)の自宅に、およそ4000瓶の茅台酒の空瓶が並んでいるショッキングなシーンがある。貴州省党幹部が、権力を利用し、公金で飲みつくした茅台酒の瓶だった。自分自身で飲んだだけでなく、家人を通じて茅台酒を販売し私腹も肥やしていた。貴州省の党幹部の職権を乱用し、茅台専門販売店の営業許可発行などが絡む利権構造もあった。

 茅台酒は貴州の地域特産品であり、地元に巨大な経済効果、社会的利益をもたらしてきた。だがその繁栄の陰で、省の党委員会と企業の党委員会幹部たちは利権をむさぼっていた。2018年4月にこの一連の茅台酒汚職の発端となる王暁光が取り調べを受け、指導幹部の特権乱用が引き起こした「茅台酒怪現象」が徐々に白日の下にさらされはじめた。

 党の幹部らが、公金を使った宴会で茅台酒を盛大に飲んだり、賄賂がわりに贈答したりする状況がそこにはあった。一瓶500ミリリットル入りのアルコール度53度の茅台酒は卸値で969元(約1万4841円)、市場価格は1499元(約2万2959円)。

 だが需要に供給が追い付かず、普通の人たちは買いたくてもなかなか買えず、専門店では2000元(約3万633円)以上の値をつけても、すぐに売れてしまう。当然、茅台酒を取り扱いたい店は多く、そこに地方の政治生態と社会風紀が深刻に汚染される状況が生じてくるのだった。目下の取り調べによれば、袁仁国が当時長期に茅台酒の販売権利を独占しており、茅台酒販売権の授与の代わりに賄賂を受け取り、政治権力の高みに上ろうとしてきた。

 袁仁国の腐敗が発覚されたあとは、芋づる式に茅台集団の元社長の劉自力(Liu Zili)、元副社長の高守洪(Gao Shouhong)たちが司直の手に落ちっていった。2019年だけで、茅台集団幹部8人が、収賄容疑で逮捕された。

 茅台酒専売権利汚職の特徴は、専売店幹部家族も関与している点だ。たとえば茅台酒販売有限公司元会長の王崇琳(Wang Chonglin)の妻は、専売店との契約の際に、出荷数の増量などの代わりに、専売店から高級ブランドのバッグや、ジュエリー類を違法に受け取っていた。

 こうした腐敗が堂々と横行していた背景には、茅台酒産業の特殊性がある。特殊な伝統技術でつくられる茅台酒産業は非常に閉鎖的で、生産現場は何代にもわたって技術を継承してきた職人がほとんどで、これは一部指導的職位にある人間による職場の私物化がしやすい状況だった。いわゆる「圏子文化」と呼ばれる人間関係の強固な職場であり、規律違反も仲間内で共謀しやすい。また茅台集団は貴州の大納税企業で、2018年だけでも380億元(約5820億円)の税金を貴州省に収めていた。これは貴州省全体の税収の14%を占める。

 こうした背景が汚職腐敗を生みやすい土壌となっていた。

 党中央が八項規定(公務員が遵守すべき勤勉倹約の奨励など8つの規定)を打ち出す前、党政機関が茅台酒の主要販売経路の一つだった。茅台集団は、このため党政機関の人間関係や背景などを熟知していたことも、こうした腐敗の温床となった要因だろう。また、茅台集団内の党の観念が薄れており、個人に権力が集中していたことも大きい。袁仁国は2000年ごろから茅台集団の党委副書記、社長、会長などの職務を歴任し、権力を一身に集中させていた。集団の党規律検査、会計監査部門も、袁仁国の指示に従っていた。

 中央規律検査委員会の巡視チームがフィードバックした状況や、規律検査監察当局が調査を通じて国有企業領域における問題点を見るところでは、党の指導が弱体化し、党の建設が欠落し、党の厳格な管理の力が及ばない現象は、国有企業で突出しているという。

 新型コロナウイルス感染症の影響もあって今年上半期の白酒企業全体の営業収入、純利益とも下降しているなか、茅台酒は以前、営業収入前年同期比12.76%、上場企業の株主純利益は前年同期比16.69%といずれも2けた成長を維持。そのブランド力は健在だ。この茅台のイメージとブランドを守りながら、今後、貴州省・茅台集団として、どのように内部の澱だけをくみ出し、澄んだ酒を造っていけるのか。国家イメージにもつながる酒だけに、貴州省、茅台集団が求められる努力と要求は相当厳しいものになりそうだ。(c)東方新報/AFPBB News