【8月16日 AFP】冬に餌を求めてトナカイを移動させる遊牧民にとって、かつて一番心配していたのはトナカイを襲うオオヤマネコ、クズリ、ワシの存在だった。

 だが、気候変動という新たな脅威が今、数百頭のトナカイを所有するスウェーデンの先住民族サーミ(Sami)人の夫婦、マルグレット・フィエルストローム(Margret Fjellstrom)さん(39)とダニエル・ビクランド(Daniel Viklund)さんの一番の心配事になっている。

 スウェーデン北部の気候の変化により、夫婦は腹をすかせたトナカイが餌を食べられる場所を探すため、これまでよりも遠い場所に行くことを余儀なくされており、費用と時間がかさんでいる。

 氷点下17度になった2月のある朝、トナカイは前足で深く積もった雪をかいて、地衣類(藻類と共生する菌類の仲間)を探していた。バルト海(Baltic Sea)沿岸の丘に生息する地衣類が、トナカイの冬の主食だ。

 この日のように十分な降雪が定期的にあった頃、フィエルストロームさんの両親は餌があるおなじみの場所に寄りながら、毎年毎年同じルートを移動できた。

 しかし、状況は変わってしまった。

「1月に雨が降ることもあるし、5月に雪が降ることもある。もはや理屈通りにはいかない」とフィエルストロームさんは話す。

 スウェーデンの気象研究所の報告によると、北部と東部の一部の1991~2019年の平均気温は、1860~1900年と比較し2度近く上昇している。また、北部の1月上旬の数日間の気温は、通常の気温を10度近く上回っていたという。

 さらにスウェーデン中央部にある3か所の観測所では1月2日、1月としては1971年以来の最高気温を観測した。

 季節外れの高温は雪解けの原因となる。寒さが戻って雪が再び凍ると厚い氷の層ができ、トナカイは地衣類を掘り出せなくなってしまう。