【6月9日 AFP】ロシアの北極圏にある都市ノリリスク(Norilsk)で燃料油が流出し、河川を広範囲に汚染した事故についてロシア当局は5日、永久凍土が融解したことが原因だとし、同じように脆弱(ぜいじゃく)な地域に立てられているインフラ施設の点検を指示した。

 永久凍土の融解は人々の健康と自然環境を脅かす「時限爆弾」であり、地球温暖化を加速させる恐れがある。

 事故は5月29日に発生。ロシアの金属大手ノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel)が子会社を通じて所有する火力発電所の燃料タンクが倒壊し、軽油2万1000トンが流出した。

■永久凍土とは

 永久凍土は主に北半球に分布しており、北半球の露出した陸地の約4分の1の面積を占めている。概して数万~数千年前に形成されたもので、米アラスカ、カナダ、ロシアをまたぐ北極圏と北方林地帯に広がっている。深さは数メートルから数百メートルまでさまざま。

 永久凍土層には推定1.7兆トンの炭素が、凍結した有機物の形態で閉じ込められている。この有機物は朽ちた植物の残骸や死後長年を経た動物の死骸などが堆積物に取り込まれ、後に氷床で覆われたものだ。

 永久凍土の土壌には、地球大気の約2倍の炭素が保持されている。

■地球温暖化の加速

 永久凍土が融解すると、この有機物が温められて腐敗するため、土壌に保持されている炭素が二酸化炭素(CO2)やメタンとして放出される。CO2やメタンなどのガスは、温室効果による温暖化の影響を地球に及ぼす。

 国連(UN)の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2019年9月に発表した報告書によれば、炭素汚染が弱まることなく続くと、永久凍土の大部分が2100年までに融解する可能性がある。

■凍結された病気

 永久凍土の氷に長年閉じ込められていた感染症を引き起こす細菌やウイルスなどが、永久凍土の融解で解き放たれる恐れがある。

 既に数件の事例が発生している。2016年には、ロシア極北シベリアで炭疽(たんそ)が集団発生し子ども1人が死亡した。科学者らは、70年前に埋められた炭疽菌に感染したトナカイの死骸が永久凍土の融解により露出し、そこから拡散したと指摘している。氷から解き放たれた炭疽菌は、放牧されていた家畜に感染したとみられる。

 この他にも、昔の天然痘患者の埋葬地などで、凍土層中に埋められ休眠状態にある他の病原体が地球温暖化で目覚め、活動を再開する恐れがあると、科学者らは警告している。

 永久凍土の融解はまた、土砂崩れの発生や建物、道路、石油パイプラインの破損などインフラへの深刻な影響を与えることも懸念されている。(c)AFP/Jean-Philippe CHOGNOT