【6月9日 東方新報】日本で食事をする場合、定食のように最初から一人一人の料理が分けて出てくるのが普通だが、中国では大皿や鍋で料理が出てきて、めいめい自分の皿に取り分けるのが一般的だ。しかし新型コロナウイルスの流行を機に、最初から料理を小皿に取り分ける「分餐(ぶんさん)制」を広めようとする動きが出ている。「食卓革命」ともいわれる新しい食事文化は、果たして定着するか。

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 一つの大皿をみんなでつつきあったり、自分の箸で料理を取って友人に手渡したり。それが中国の食卓における長年のコミュニケーション方法だ。中国で勤務する日本人同士でも「中国式で行きましょう」とじか箸で料理をつまむことが珍しくない。だが、新型コロナウイルス感染症が収束して中国全土でレストランが再開する中、行政の指導で店側が取り箸を用意し、「じか箸は控えてください」と客に伝えるようになった。客も最初はそれに従うが、そのうちに「どっちが取り箸か分からなくなった」「仲間同士で食べているのに、なんだか水くさい」と言って、じか箸に戻ってしまう光景をよく見かける。

 日本に留学経験がある中国人男性は「例えば、日本の銭湯が『見知らぬ人同士が同じ湯船に入るのは不衛生だ』と言われたら、日本人は戸惑うでしょう? 大皿や大鍋をみんなでつつきあうのは中国人にとっての『裸の付き合い』ですよ」と説明する。

 そこで、各地のレストランが加盟する「中国飯店協会」は3月、取り箸制とともに、食事を事前に取り分けて客に提供する「分餐制」の実施を呼びかけた。山東省(Shangdong)では「飲食業分餐制実施ガイド」を打ち出し、「1人分ずつ料理を提供する」「取り分け用スプーンを用意する」方法を取り入れるよう飲食店に通達した。日本でも人気が出ている「蘭州牛肉麺」の本場・甘粛省(Gansu)蘭州市(Lanzhou)のあるラーメン店では、店の看板だった3~4人前の大盛り牛肉面を控え、大人数のテーブルも改造し、「1テーブルに1人、1杯の牛肉麺」というスタイルに変更した。大皿や大鍋で食事をすると大量の残飯も残るため、「分餐制は新たなビジネスチャンス」と前向きにとらえる店も多い。

 ただ、実は分餐制の提唱は今回が初めてではない。古くは1910年にペストが流行した時や、最近では2002~03年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した時も分餐制が呼びかけられた。しかし感染症の恐怖が去るとともに、取り組みは下火になった。「同じ皿のものを取ることから人との和が強まる」という意識は根強く、「ポストコロナ」の食事文化が変わるか、一筋縄ではいかないようだ。(c)東方新報/AFPBB News