【5月13日 東方新報】新型コロナウイルス肺炎の流行は、中国人の食事マナーに大きな変化を起こしている。中国では大皿料理を大人数で囲み、じか箸でつつきあって食べるのが一般的だったが、最近は「とり箸」の習慣化や、最初から一人分の膳に分けて食べる「分餐」などの導入が各地で提唱されているという。

 浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)では先月25日、浙江伝媒学院(Communication University of Zhejiang)の葛継宏(Ge Jihong)教授が、箸が二組ならんでいる様子に似ている11月11日を「全民とり箸行動日」にすることを提案し、話題になっている。

 浙江省では新型肺炎の流行中、レストランや飲食業界、あるいは自宅での生活においても「とり箸とりわけさじ」の使用が推進されてきた。しかし、葛継宏教授によれば、呼びかけだけでは限界があるという。

 中国では、食事は一種の社交活動であり、じか箸で和気あいあいと大皿料理をつつきあう食事の雰囲気の中で、とり箸に取り換えることはムードに水をさしたり、人間関係も疎遠になったりするのではないかという考え方が根強い。とり箸の重要性を教条的なスローガンで繰り返すだけではなかなか共感も得られないという。

 そこで、とり箸行動日を制定し、各種イベントや宣伝活動を実施してはどうかという。例えば、アニメの都・杭州市では「とり箸使用公益活動アニメ」を制作したり、アニメキャラの「とり箸推進大使」などを生んだりすることで、とり箸使用の習慣化を広めるという。さらに、「とり箸」を機能性だけでなくうんちくや文化性を商品として実現することが、伝統的箸工場にとって新たなビジネスチャンスを生むと力説した。

 こうした動きは杭州市だけでない。江蘇省(Jiangsu)泰州市(Taizhou)では全国初の「とり箸とりわけさじ使用規範」を制定、河北省(Hebei)では「河北省飲食業分餐制、とり箸とりわけさじサービス規範」を発表、四川省(Sichuan)成都市(Chengdu)でも「文明とり箸の日」のテーマイベントなどが開催されている。北京市や吉林省(Jilin)などでも、とり箸使用の提案が地元関係当局から打ち出されている。

 唾液のついたじか箸の衛生面については、以前から問題視されていた。感染症の拡大ルートの中で唾液は最も主要な媒介であり、中国疾病予防コントロールセンターによれば、 B型肝炎の患者がいる家族間で、じか箸をつかって大皿料理食べる感染率が42%なのに対し、とり箸を使えばそれが17%に低下するという。

 また、レストランなどで3年間使われた箸を顕微鏡で調べると10万以上の細菌が付着しているのだという。2003年のSARSが流行したときも、中国ホテル協会が、レストランなどでの「とり箸」使用のルールを制定、一つの料理に必ず一つのとり箸をつけて客に出すこと、個人使用の箸ととり箸のデザインや色をかえて提供し、混同しないようにすること決められていた。

 今回の新型コロナウイルス肺炎の流行で、こうした「とり箸」を使うことの重要性が再認識されており、中国人の「行動変容」の一つとして広がりつつある。(c)東方新報/AFPBB News