【5月22日 東方新報】中国政府が打ち出した野生動物の「禁食令」が、各地の農村で波紋を広げている。野生動物が新型コロナウイルスを媒介した恐れが指摘されているため、その対策を示したものだが、野生動物の養殖農家たちは「私たちの生活はどうなるのか」と悲鳴を上げている。

 中国の全国人民代表大会常務委員会は2月下旬、野生動物を食べることや違法取引などの禁止を決定。4月には「食用や酪農、毛皮などに活用できる動物のリスト案」が公表され、牛や豚、羊、馬などのほかウサギやアルパカ、ダチョウなど31種類が含まれた。これら以外の野生動物については細則が作られている最中で、すべて禁止となるかまだ分かっていない。野生動物と言っても、市場で食用とされているものの多くは農家が養殖しているものだ。

 バッタ養殖が盛んな山東省(Shandong)済南市(Jinan)の農村部では、多くの農家が「売れないし、捨てられない」というジレンマを抱えている。バッタの販売や食用が禁じられるか明確になっていないためだ。

 済南市黄河鎮(Huanghe)の陳善亮(Chen Shanliang)さん(50)は昨年、30万元(約454万円)強を投資し、バッタ養殖のため35棟のビニールハウスを建てた。バッタは約40日間で成長し、年に3~4回出荷する。昨年は60万元(約908万円)強の売り上げがあり、土地代やえさ代などを差し引くと、30万元近い利益を上げた。しかし今年は政府の「禁食令」にバッタが含まれるか分からず、業者が買い取ってくれない。陳さんは「バッタは成長して卵を産むと数日で死んでしまう。もう既にバッタの10分の1が死んだ」と嘆く。 

 バッタは農産物を食い荒らす害虫。農民は「作物の敵」を退治すると同時に、食用にもしてきた。唐の時代にはすでに食用にした記録がある。今回の禁食リストから外れるという見込みもあるが、養殖農家たちは落ち着かない日々が続く。

 野生動物を飼育する農家と関連の業者を含めると、中国全土でその数は1400万人といわれる。実は、野生動物の養殖は政府が近年、貧困地域の農家に奨励していたものだ。山間部などの農村では、田畑からの収穫量が少なく、単価も低い。政府や地元行政は、収益が高い野生動物の養殖を始める農家に減税や低金利融資、手続きの簡素化などの措置を取ってきた。2018年の政府の「中央1号文件」でも、農業振興戦略として「野生動物の養殖の拡大」をうたっている。「中央1号文件」とは政府が新年に発表する重要政策テーマだ。

 野生動物を食べることは中国では「医食同源」の思想に基づく健康食。珍味を好む消費者にも人気で、多くの農家がようやく貧困から抜けだすようになった。新型コロナウイルスの感染源といわれたタケネズミも、貧困農家を潤した「金のネズミ」だった。

 それだけに今回の「禁食令」は関係農家にとって大打撃だ。行政の後押しで野生動物の養殖を始めたばかりの農家は「借金だけ抱えて収入のめどがなくなった」という問題に直面している。

 政府は今後、野生動物の養殖ができなくなる農家には、食用が可能な動物の飼育や他の農産物に生産転換するよう促すものとみられる。山間部の貧困農村地帯は、大半の若者が出稼ぎに出ていて高齢世帯が中心だ。肉体的にも経済的にも「体力」は乏しく、政府の早期の支援が求められている。(c)東方新報/AFPBB News