■「テクノロジーが他のスポーツも進化させた」

 米国を拠点に活動するジャーナリストで、ランニングシューズの研究本を執筆しているブライアン・メッツラー(Brian Metzler)氏は、「カーボンファイバー製プレート内蔵のシューズは、長い年月をかけて進化したもので、継続的な革新の途中経過であると信じている。それは1970年代以降、ランニングシューズの進化の根幹を成している」と述べている。

「これらのシューズが公平な理由はいくつかあると確信しているが、最大の理由はエネルギーを人工的につくり出すのではなく、ただランナーが自然と歩幅に加える力とエネルギーを最大化することだ」

 メッツラー氏はテニスやスキー、自転車、ゴルフ、サッカーが進化したのは道具が発達したためだと主張し、「重要なのはある意味、公平な競技の場を確保するためには、すべての競技者が同等あるいは平等のテクノロジーを手に入れる必要があることだ」と語った。

 一方、米ミシガン大学(University of Michigan)で生物力学やスポーツパフォーマンスを研究しているジェフ・バーンズ(Geoff Burns)氏は、ヴェイパーフライの登場が転換期になったといい、「それ以前における競技シューズの最適な方程式は、ほんのわずかなクッション性を与えつつ、可能な限り重量を軽くすることだった」とAFPの取材で話した。

■「完全に不公平」

 1968年のボストン・マラソン(Boston Marathon)で優勝し、米誌「ランナーズ・ワールド(Runner's World)」の元編集長も務めたアンビー・バーフット(Amby Burfoot)氏は、とりわけ2016年の米国の五輪マラソン選考会やリオデジャネイロ五輪において、何の前触れもなくナイキの厚底シューズが登場したのは「完全に不公平」だったとの考えを示した。

「棒高跳びで一部の選手だけにグラスファイバー製のポールを使用させ、残りの選手には竹などの硬い素材でできた道具を与えるのに等しかった」

 現在はウルトラマラソンの国際大会に挑戦しているバーンズ氏は、「自分たちのパフォーマンスをどれだけエンジニアリングの技に頼るか」が問題だと話している。さらに、技術が発達するにつれて、ワールドアスレティックスが必要と認識してもこれ以上は規制できない状況になるのは、そう遠い話ではないとの考えも示した。

「競技結果やパフォーマンスは常に道具のクオリティーによってうまく生かされると、人々が考えるところまできている。われわれはそれを望んでいるのか? そういう人もいるのは、シューズの方程式においてエンジニアリングの進歩は楽しみな部分という見方があるからだ」

「そうでないという人は、それが人間のパフォーマンスの純粋性をゆがめるものだと見ている。誰もが、どこかそういう屈折した見方に陥る」