【5月12日 AFP】黒死病(ペスト)の流行がきっかけとなった農奴解放や、第2次世界大戦(World War II)後の荒廃から誕生した英国における「福祉国家」など、主な社会的進歩は大惨事から発生することが多い。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴い多くの政府が、以前は「ユートピア的」だとし取り入れていなかった、労働者に対する賃金支援やホームレスへの宿泊施設の提供といった政策を実施している。

 だが、緊急事態に伴う措置が緩和され、世界が正常化を試み始める中、こうした政策が実施されている場合、どれが継続可能か、もしくはどれを継続すべきなのかという議論が起きている。

 英国では他の国々と同様、今回の危機により配達員や教師、看護師といった市民生活に不可欠な職業に従事する人々の賃金が、不当に低い現状が浮き彫りになった。

 英政府は、法律上傷病手当が保障されていない自営業者が体調不良にもかかわらず働き続ける事態を恐れ、自営業者500万人分の収入支援にも乗り出した。具体的には、1か月の所得の80%分を、2500ポンド(約33万円)を上限に支給する。

 英オックスフォード大学(University of Oxford)の歴史専門家ティモシー・ガートン・アッシュ(Timothy Garton Ash)氏は、最低所得保障制度(ユニバーサル・ベーシックインカム、UBI)は、少し前までは「ユートピア的とは言わないまでも、急進的だ」と考えられていたと指摘する。だが、同大学の最近の研究では、欧州の人の71%が、UBIの概念を支持していることが明らかになっている。

 英国では、新型コロナウイルス感染リスクを考慮し、ホームレスを宿泊客のいないホテルやホステルに収容している。英政府によると、地元当局が把握する路上生活者の90%に当たる約5400人が宿泊している。

 慈善団体「クライシス(Crisis)」は、ホームレスの数は17万人に上り、感染拡大を理由に賃貸物件から立ち退きを迫られている人はさらに多いとしている。

 同団体のジャスミン・バスラン(Jasmine Basran)氏は、政府の対応は「信じられないほど素晴らしい」「政治的意思があれば、何が可能かということが示された」と話した。

 英ウォリック大学(University of Warwick)のマーク・ハリソン(Mark Harrison)教授(経済史)は、今回の危機は長期的には人々の認識を良い方向に変える可能性があると指摘する。

 だが、英ロンドンにあるインペリアル・カレッジ・ビジネススクール(Imperial College Business School)のサンカルプ・チャトルベディ(Sankalp Chaturvedi)教授(組織行動論、リーダーシップ論)は、善意には限度があると話す。

「この寛容さは、将来の増税につながる」と述べ、短期的な支援は不安と失望をもたらすと予測している。(c)AFP/Veronique DUPONT