【3月24日 東方新報】新型コロナ肺炎の感染拡大の原因の一つの背景ともいわれている「野味」(中国式ジビエ)の禁食令が波紋を引き起こしている。野味は、中国の伝統でもあり、「医食同源」の思想に基づく健康食ともみられてきた。農家の副業としての養殖産業への打撃も大きい。

 全国人民代表大会常務委員会はこのほど「野生動物違法交易の全面禁止、野生動物を食べる悪弊をやめ、人民群衆の生命健康安全の切実な保障に関する決定」を打ち出し、中国史上、最も厳しい野味禁止令になるとみられている。北京、広東省(Guangdong)、湖北省(Hubei)など各地でこの決定を受けた関連規定などが打ち出され始めた。

「決定」では、主に陸生野生動物を禁食の対象とし、具体的には野生動物保護法に基づくイノシシ、センザンコウ、ハナジカ、スズメ、キジバトなどの名前が挙がっている。養殖のセンザンコウやハナジカ、サンショウウオなども食用禁止となる。魚類や水生生物は今回の決定の禁食リストには入っていないので、影響はあまり受けないというものの、国家重点保護動物に入っていたり、絶滅危惧種である場合は食用が禁止となる。

 農業農村部が明確に食用可としているスッポンやウシガエルは別にして、カメ、カエル、ワニといった両生爬虫類など水陸両生動物の扱いはグレーゾーンで、何が禁食リスト入りし、何が食用可とするか、その判断基準は確立されていない。

 たとえば、ウシガエルは明確に食用可としているが、広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)で好まれるツチガエル(田鶏)は養殖して食用にしていいのかどうか。南寧のとあるツチガエル養殖農家は10万キロ相当のツチガエルを処分すべきかどうか、未だ判断が出ておらずに対応できないでいる。

 3月11日に江蘇省(Jiangsu)人民代表大会常務委員会が開催した座談会では、南京林業大学(Nanjing Forestry University)の魯長虎(Lu Changhu)教授は「現実的な問題として、野生動物に入らない生物なんていない。禁食の対象となる野生動物は、わが省の実情などを鑑みて、国家重点保護動物のほか、両生類、爬虫類、鳥獣にも実施されることになる」と指摘している。たとえば、連雲港市(Lianyungang)灌雲県(Guanyun)には「豆丹」と呼ばれる蛾の幼虫を珍味として食する食文化があるが、これも一種の野生動物だ。野味禁止令が発令されたならば、豆丹は養殖してよいのかどうか。

 江蘇省は野生動物資源が豊富で、統計によれば陸上野生生物604種が生息し、全国総数の23%を占める。うち中国の国家重点保護陸生野生動物が113種含まれており、江蘇省としての重点保護陸生野生動物も250種含まれている。

 全省で陸生野生動物の人工飼育許可証を取得している企業・農家は653社あり、うち食用目的が454社に上る。主な養殖動物にはニホンジカ、トノサマガエル、カジカ、シャムワニ、ヘビ類、雁・カモ類などがあり、総量で2100万匹・羽に上る。また、省の市場管理当局によれば、野生動物交易経営業者はオフラインで791社、市場規模は1.9億元(約29億円)以上。このうち営業許可を林業当局から取得しているのは391社。養殖販売業者は615社、レストラン経営や養殖場とレストラン業を兼ねている業者は92社、ペットショップ経営は42社、動物園管理業者は42社と言う。オンラインでの動物交易業者も148社あり、保護動物も取り扱っている業者は68社、保護動物を取り扱っていない業者は80社ある。

 禁食対象を広げすぎると、省内の動物養殖農家に大きな経済損失をもたらしかねない。

 不完全な統計によれば、2017年段階で、全国の野生動物養殖産業従事者は1400万人以上。野味禁止令は大量の失業者も生みかねない状況だ。

 食べない人から見れば、「野味」はゲテモノ食いであり、感染症の温床として衛生的にも問題ありと考え、全面禁止は当然と願うかもしれないが、地域の珍味、伝統食・健康食として食べてきた人からみれば簡単には失えない食文化であり、一大産業だ。新型コロナウイルス肺炎で火が付いた野味をめぐる議論は当面、紛糾しそうだ。(c)東方新報/AFPBB News