【3月13日 AFP】ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領はゴールデンタイムの演説で、新型コロナウイルスの流行に懸念を募らせる国民、パニック状態の株式市場、分裂した世界を安心させるという大仕事をしなければならなかった。だが、トランプ氏はそれをやり遂げる代わりに多くの人を混乱させ、いっそう不安にさせてしまった。

 ホワイトハウス(White House)の大統領執務室(Oval Office)から行われる演説は、米国に危機が訪れたときの慣例だ。世界最強の政府を導く大統領がそこにいると、はっきり示すための演説だ。

 しかし、11日夜のトランプ氏の短い演説は、新型ウイルスの世界的流行への対応に疲れたといわんばかりの語り口で、空威張りや非難の言葉、開いた口がふさがらないような間違いが重なって、株価の急落につながった。

 演説の一部はまるで、ナショナリズム(国家主義)を前面に押し出したトランプ氏の選挙集会のようにも聞こえた。もっとも、いつも騒々しいその選挙集会も新型ウイルスのパンデミック(世界的な大流行)によって取りやめとなる可能性が高い。

 おまけに、トランプ氏が感染流行を食い止めるとして打ち出した計画は、かえって世間をうろたえさせた。

■「危険なほど近視眼的」

 多くの人が期待していたのは、米国の指導者から世界へ向けた約束と、国内で拡大しつつある経済的痛手を和らげるための詳細な計画の発表だっただろう。

 ところが、トランプ氏は英国を除く欧州からの入国を30日間全面禁止するという過激な措置を発表。対象に貿易と貨物も含まれると述べたため、テレビを見ていた米国民は困惑し、投資家らは衝撃を受けた。その後、ホワイトハウスは貿易や貨物は対象外だと説明に追われたが、株価への影響は止められなかった。

 また、トランプ氏は新型ウイルスを「外国の」ウイルスと呼び、中国から始まった感染の拡大を阻止できなかったと欧州を責め、「結果として米国で起きている新たな多くの集団感染は、欧州からの旅行者がもたらしたものだ」と非難した。

 欧州からの入国禁止措置は、トランプ氏の選挙綱領にぴったり合っている。トランプ政権はメキシコ国境壁の建設を推進し、米国に有利な貿易を実現するとして関税を引き上げ、「アメリカ・ファースト(米国第一)」を何としてでも貫いてきた。

 ニューヨークのコンサルティング会社ユーラシア・グループ(Eurasia Group)のイアン・ブレマー(Ian Bremmer)氏は、新型ウイルスの流行が深刻化するイタリアに大量の医療物資を空輸した中国の対応と、トランプ政権の方針を対比させ、「アメリカ・ファーストは、世界的危機への対応としては危険なほど近視眼的だ」とツイッター(Twitter)への投稿で指摘している。(c)AFP/Sebastian Smith