【2月15日 AFP】韓国のテレビ番組で、高度なバーチャルリアリティー(仮想現実、VR)により、亡くなった6歳の娘と涙ながらに「再会」する母親の映像が放送され、ネット上で反響を呼んでいる。

 放送された映像では、2016年に白血病で亡くなったチャン・ナヨン(Jang Na-yeon)ちゃんが、まるでかくれんぼをしているかのように公園の木々の後ろから現れ、「ママ、どこにいたの?」「とても会いたかった。ママも私に会いたかった?」と尋ねる様子が捉えられている。

 母親のチソン(Jang Ji-sung)さんは崩れ落ちそうなほど感情を揺さぶられ、VRのナヨンちゃんに手を伸ばし、「会いたかったよ、ナヨン」と語りかけ、コンピューターグラフィックスで制作されたナヨンちゃんの髪をなでるように手を動かした。

 だが現実では、チソンさんはVR用のヘッドセットと触覚グローブを装着し、ナヨンちゃんの遺灰入りのペンダントを首に掛け、スタジオに設置されたグリーンバックの前に立っていた。

 チソンさんを見守る夫や他の子どもたち3人にカメラが向けられると、涙をぬぐう様子が見られた。

 韓国のテレビ局文化放送(MBC)が制作した9分間のドキュメンタリー映像「アイ・メット・ユー(I met you)」は、ユーチューブ(YouTube)上で1週間のうちに1300万回以上視聴された。

 多くの視聴者は、チソンさんに深い同情を示し、この着想を支持。ある視聴者は、「私の母は2年前に突然亡くなった。VRで母に会えたらと思う」とコメントした。

 しかしメディアに関するコラムニストのパク・サンヒョン(Park Sang-hyun)氏は、このドキュメンタリーが個々人の苦悩を食い物にすることになると指摘。AFPに対し、「悲しみに打ちひしがれた母親が、亡くなった娘に会いたいと思うのは理解できる。私も同じように思うだろう」とした上で、「問題は、放送局側が視聴率を稼ぐため、子を失って弱った母親を利用したことにある」と述べた。

 さらに、「もし母親が撮影前にカウンセリングを受けていたなら、どんな精神科医がこれを承認するだろうか」と疑問を投げかけた。

 しかし、バーチャルのナヨンちゃんをつくり上げるため、撮影と制作に8か月を要したというドキュメンタリーの制作者側は、この放送が韓国でVRを振興するためではなく、むしろ「遺族を慰める」のが目的だったと主張。

 プロデューサーの一人は報道陣に対し、VR技術が「愛する人を記憶にとどめる新たな方法」を提示したと説明。ナヨンちゃんの名前と誕生日を示すタトゥーを腕に入れているチソンさん自身も、この企画が愛する人を失った他の人々を「慰める」ことができるよう願っているという。

 チソンさんは自身のブログで、「ほんの短時間だったが、とても幸せな瞬間だった」と語った。だがその後、ブログは非公開となった。

 今回の映像では、二人がテーブルに座り、祝われることがなかったナヨンちゃんの誕生日を祝い、「ハッピーバースデー」の歌を一緒に歌う姿も見られた。ろうそくの火を消す前、ナヨンちゃんは「ママが泣きやみますように」との誕生日の願いを口にした。(c)AFP