■「誰かがしなければ」

 ウォン氏と14人の同僚医師たちが働いている隔離病棟には現在、感染が確認された2人の患者と、感染した疑いで経過観察中の40人がいる。その全員を感染者として扱わなければならない。

 ウォン氏によると、「新型のウイルスであるため、毎日それぞれの患者を2回ずつ訪ね、患者の経過についてチームの臨床会議を3回開かなければならない」のだという。

 マスクやフェースバイザー、手袋などの防護資材が底を突きかけており、焦りが募る。

 香港当局は、医療従事者用マスクの在庫があと1か月分しかないと認めているが、医療関係の諸団体は、現状のペースでマスクが消費されれば当局の見込みより大幅に早く在庫がなくなる恐れがあると警告している。世界的にマスク不足の状況だが、香港当局は追加輸入を検討している。

 親中派の香港政府は、十分なマスクの備蓄を怠り、中国本土からの入境制限措置を取るのも遅れたとして医療関係者から批判されてきた。今月初めには数千人規模の医療関係者が、本土との境界を閉鎖するよう求めるストライキを実施。ウォン氏はこのストには参加しなかったが、支持はしていたという。

 香港では2003年、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行し299人が死亡。ウォン氏が勤める病院でも8人の医療従事者が死亡した。現在のウイルス流行が「単なる歴史の繰り返し」であることを考えると、政府はより周到に準備しておくべきだったとウォン氏は指摘する。

 SARSの流行当時医学生だったウォン氏は、今回の新型コロナウイルスの対応に名乗り出たことについて後悔することになるかはまだ分からないと語る。「誰かがこの仕事をしなければならない。そしてわれわれは、この仕事をするために訓練を受けてきた」 (c)AFP/Su Xinqi