■今回の任命、政府の思惑は

 政府が国民から信頼の厚い鍾医師を任命したことは、国民の不信感と不安感を解消させたい思惑もある。

 新型ウイルスの拡大をめぐっては、微信(ウィーチャット、WeChat)でいち早く新型肺炎の可能性を指摘した武漢市の李文亮(Li Wenliang)医師が当初、「デマを広めた」として警察の取り調べを受け、訓戒処分を受けた。李医師は今月7日、治療中に新型肺炎のため34歳の若さで死去。李医師ら訓戒処分を受けた8人は今、国民の間で「事前諸葛亮(Zhuge Liang、孔明)」と称賛されている。三国志の名軍師・諸葛亮にちなみ、「知識や知恵に基づき先を予測した」という意味だ。

 共産党機関紙・人民日報(People's Daily)など中国メディアは、こぞって李医師の死去に哀悼を表明しているが、市民の間では初期対応の誤りや情報隠しへの不信感が膨らんでいる。

 一方で、新型肺炎を恐れるあまり、「60度以上のお湯を飲むとウイルスを殺せる」「ごま油を鼻の穴にたらすと予防効果がある」などのデマが広まったり、集落の入り口にバリケードをつくって部外者を入れない村が現れたりと、不安感も拡散している。

 そこで、鍾医師の登場が大きな意味を持つ。一切の忖度(そんたく)をせず、うそのない発言と行動に国民も信頼し、安心感を持つ。

 鍾医師は今月9日、最新の研究論文を公開した。「新型コロナウイルスは感染力が強く、多人数にウイルスを広げる『スーパースプレッダー』が既に発生している可能性がある」「新型肺炎の致死率はインフルエンザよりは高いが、SARSよりはかなり低い」。敵は手ごわいが、倒せない相手ではない――こまめに手を洗う、顔に触れないといったことを徹底して、感染予防にとって最も必要な「正しく恐れる」ことを国民に呼びかけている。(c)東方新報/AFPBB News