【2月12日 AFP】米国とドイツの情報機関が戦後長年にわたって暗号関連装置を製造していたスイス企業を秘密裏に所有し、世界各国の政府機関の極秘通信の内容を収集していたと、米国、ドイツ、スイスのメディアが11日報じた。

 この企業はスイスのツーク(Zug)に本社を置いていたクリプト(Crypto)。同社は通信を暗号化する機器製造の大手として、第2次世界大戦(World War II)後から今世紀初めまで、イラン、南米諸国、インド、パキスタンなど約120か国に暗号機器を販売していた。

 しかし米中央情報局(CIA)とドイツの対外情報機関「連邦情報局(BND)」が秘密裏にクリプトを所有していたことは、同社の機器を導入した各国政府には知られていなかった。クリプトが得た巨額の収入はCIAとBNDに流れていた。

 米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)、ドイツ公共テレビZDF、スイス公共放送のドイツ語局SRFが報じたところによると、CIAとBNDは暗号化された各国の情報を簡単に読み取れるよう、クリプトの機器に手を加えていた。ワシントン・ポストは「世紀のインテリジェンス・クーデター」だと指摘した。

 クリプトが情報当局の活動に関与していたのではないかという疑惑は以前からあったが、数十年前に明るみに出た文書でもその疑惑が裏付けられることはなかった。

 クリプトの真の所有者は、リヒテンシュタインで登録された複数のダミー会社によって隠されていたが、西側諸国と対峙(たいじ)する旧ソ連や中国がクリプトを信用することは決してなかった。

 BNDは、実態が露見することへの恐れや、クリプトの暗号機器を利用して友好国と敵対国の区別もなく精力的に情報を集めるCIAの姿勢への疑問からか、この件から撤退。これを受けてCIAは1990年代にクリプト株を購入した。

 その後、オンライン技術の発達によりクリプトが開発した機器よりも優れた暗号アプリなどが開発され、最終的にCIAは2018年にクリプトを売却した。

 その後クリプトは2つの企業に分割された。スイス国防・市民防衛・スポーツ省の報道官によると、スイス政府は昨年11月にクリプトに関する情報提供を受け、元連邦判事を指名して調査させているほか、クリプトの後継会社2社に対する輸出承認を差し止めた。(c)AFP