【2月5日 AFP】フランス生まれの米国人文芸批評家・文筆家のジョージ・スタイナー(George Steiner)氏が死去した。90歳だった。英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)が4日発表した。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)はスタイナー氏の死去について、同氏の息子デービッド・スタイナー(David Steiner)さんが認めたと報じた。

 ケンブリッジ大チャーチル・カレッジ(Churchill College)はスタイナー氏の死を受け、「悲しみに沈んでいる」と表明した。スタイナー氏は同カレッジ設立期のフェローで、名誉教授でもあった。同校のアーカイブには同氏の論文が保管されている。 

 スタイナー氏は1929年4月23日、フランスの首都パリで生まれた。英オックスフォード大学(University of Oxford)で博士号取得後、米プリンストン大学(Princeton University)を経て1961年にチャーチル校フェローとして英ケンブリッジに移住した。

 1966年から97年までは米誌ニューヨーカー(The New Yorker)で書評家を務めた。

 英仏独の3か国語を流ちょうに操ったスタイナー氏は「多言語に通じた博識家」と称され、生真面目な文学批評界に、より広く国際的な視野に立った新たな手法を導入し変革をもたらした。

 フョードル・ドストエフスキー(Fyodor Dostoyevsky)から古代ギリシャの叙情詩やウィリアム・シェークスピア(William Shakespeare)まで幅広い見地から諸作家を論じ、言語と文学、社会の関係について多くの著作を残した。

 だが、スタイナー氏の文筆に最も影響を与えたのは、ナチス・ドイツ(Nazi)によるホロコースト(Holocaust、ユダヤ人大量虐殺)だった。同氏の誕生前、スタイナー一家は台頭していたナチスの脅威を逃れてオーストリアからパリへ移住し、さらに同氏が幼少だった第2次世界大戦中、ナチスのフランス占領前夜に米ニューヨークへ移住した。

 英紙ガーディアン(Guardian)の2001年のインタビューでは「私の全生涯はホロコーストの記憶、死にまつわるものだ」と答え、自らを世界をめぐる放浪者と称した。

 特にナチスの「ユダヤ人問題の最終的解決」の恐怖については、「アウシュビッツ(Auschwitz)を考案し運営した人物の中には、シェークスピアやゲーテ(Goethe)を読む教育を受けた者もいたのだ」と述べ、文学は蛮行に対する防波堤となり得るという考えを全体主義はくじいたと論じた。

 また伊紙コリエレ・デラ・セラ(Corriere della Sera)の昨年4月のインタビューでは、欧州全域における外国人嫌悪の台頭を懸念し、「外国人嫌悪、ユダヤ人狩り、自己防衛のための口実、武器などは恐ろしい退行の兆候であり、暴力の前兆である」と語った。(c)AFP