■技術進歩の面では米国に大きく遅れている

 中国ではいまだ個人情報に特化した法律が整備されていない。現在、法案化が進められているが、いつ導入されるか定かではない。

 一方で政府は、先進技術による一大監視国家を築こうとしている。至る所に監視カメラが設置されているが、当局は犯罪対策と国民の安全を守るためには必要だと説明している。

 個人情報保護に関する法律を導入した場合、政府が進める監視国家政策を妨げる可能性があり、個人情報保護法が成立したとしても、大きな変化はないのではないかと専門家らは指摘する。

 北京師範大学(Beijing Normal University)の法学部教授で、亜太網絡法律研究中心(Asia-Pacific Institute for Cyber-Law Studies)の創設者である劉徳良(Liu Deliang)氏は、「企業内に個人情報やデータ保護の専門家を配置するような象徴的な動きはあるかもしれないが、形式的なものにすぎないだろう」と述べている。

 中国の新奇なハイテク技術を伝えるニュースは多いが、実際には、技術進歩の面では米国に大きく遅れており、中国が勝っているのは技術の広範囲な商業使用のみだとする専門家らの声もある。

 中国の携帯電話でのインターネット利用者数は8億5000万人以上と世界最多で、企業にとって中国は、技術の実行可能性を探るための格好の実験場だ。

 国内では、領収書の支払い、学校での出席確認、公共交通機関の改札の効率化、交通規則を無視して道路を横断する歩行者の特定など、さまざまな用途に顔認証が用いられている。観光地によっては、トイレットペーパーの使用量を抑えるため、顔認証でトイレットペーパーを受け取れる仕組みの公衆トイレが設置されている場所もある。

 だが、中国消費者協会(China Consumers Association)の2018年11月の報告書によると、携帯アプリの90%以上が個人情報を、10%は生体認証データを過度に収集しているとみられている。

 懸念が広がったのは、昨年12月に政府が通信事業者に対し、直販店で新しい電話番号を契約する顧客を登録する際、利用者の顔認証データを収集することを義務付けてからだ。さらに、多数の顔認証データがインターネットで1件10元(約158円)ほどで販売されているという国内メディアの最近の報道も、そうした動きに拍車を掛けた。(c)AFP/Kelly WANG