【10月12日 AFP】現金も、カードも、スマートフォンもいらない――顔認証技術が普及する中国では、顔を向けるだけで商品の購入が可能になる顔認証決済の利用が広がっている。

 中国はモバイル決済インフラが最も発達した国の一つだが、顔認証という新たな決済システムが全国に展開され始めており、もはやQRコードですら時代遅れになりつつある。

 顧客は支払いの際、カメラを搭載したPOSレジの前に立つだけでいい。顔の画像とデジタルペイメントシステムまたは銀行口座が一致すれば支払いは完了する。

 中国では顔認証技術が既に広範囲で使用されているが、信号無視をした歩行者の社会信用評価や犯罪者の逮捕など、市民の監視に利用されることも多い。また、弾圧や反対意見の取り締まりに使われているとの批判もあり、特に新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)には厳重な監視体制が敷かれている。

 オーストラリア・シドニーのマッコーリー大学(Macquarie University)の中国研究者アダム・ニー(Adam Ni)氏は、「監視や反政府活動家の追跡、社会と情報の統制、特定民族に対するプロファイリングなど、政府が自分たちの目的を達成するためにデータを使う可能性があり、(中略)非常に危険だ」と指摘した。

 市場をけん引するのは中国電子商取引(EC)大手、アリババグループ(Alibaba Group)の決済サービス「アリペイ(Alipay)」で、既に100都市に顔認証の専用機器を設置している。

 アリペイは、顔認証決済分野は今後も大きな成長が見込まれると予測しており、最近では「iPad(アイパッド)」ほどの大きさの、笑顔を向ければ決済される支払いサービス「スマイル・トゥ・ペイ(Smile to Pay)」改良版を市場に投入した。アリペイはこの技術の実用化に3年で30億元(約450億円)つぎこんだ。

 約6億人のユーザーが利用する中国のソーシャルメディア「微信(ウィーチャット、WeChat)」を運営するIT大手「騰訊控股(テンセント、Tencent)」は8月、新たな顔認証決済「フロッグ・プロ(Frog Pro)」を発表した。また、急成長する顔認証決済分野への新規参入を目指すスタートアップ企業も増えている。