【12月22日 AFP】映画のロケやコウモリの保護、ブロッコリー畑――「チューブ」の愛称で知られる英ロンドン地下鉄（London Underground）の廃駅が、さまざまに再利用されている。ロンドン交通博物館（London Transport Museum）では、地下に広がる驚きの世界をめぐるガイドツアー「Hidden London（隠されたロンドン）」を実施している。

　ピカデリーサーカス（Piccadilly Circus）駅では、トンネルに列車のごう音が鳴り響く中、何年も前に使われなくなった駅構内の一部を見学できる。ロンドンで最も混雑した駅の目と鼻の先に、時が止まったかのような空間が広がっており、古めかしい書体で書かれた案内板も残っている。

　この場所は現在、機材や換気装置が置かれているが、第2次世界大戦（World War II）中は「爆撃から高価な美術品を守るため」に使われていたと、ツアーを主催するシディー・ホロウェイ（Siddy Holloway）さんは説明する。

■コウモリと人間

　北ロンドンにあるハイゲート（Highgate）駅の地上プラットホームは、90年の役目を終え1950年代後半に閉鎖された。使われなくなった近くのトンネルには近隣の森にいたコウモリがすみ着くようになり、今ではコウモリの保護区となっている。

　第2次世界大戦中は人がドイツ軍の爆撃から身を守るため、トンネルや駅に身を隠した。当時の白黒写真には、レールの上につるされたハンモックで眠る子どもやボードゲームで遊ぶ子ども、踊ったりラジオを聞いたりしている大人が写っている。

　1932年に閉鎖されたダウンストリート（Down Street）駅は戦時中、ひそかに鉄道管理委員会（REC）の本部として使われていた。RECは、英国内の主要な鉄道網と軍の部隊や装備の動きを管理していた。

　駅構内には執務室、会議室、トイレ、宿舎、食堂が造られ、40人が作業したり生活したりしていた。当時首相だったウィンストン・チャーチル（Winston Churchill）は、ここでもてなされた客の一人だ。食料が配給制だった当時には珍しく、たっぷりのごちそうが振る舞われたという。

■生まれ変わった廃駅

　南ロンドン・クラパム（Clapham）を通るノーザン線（Northern Line）の地下トンネルにあった防空壕（ごう）は数年前、ブロッコリーやコリアンダー、豆類などを栽培する人工照明を使った菜園に生まれ変わった。

　地上を通る人々は、足元の廃駅の存在には気付いていないだろう。だが、映画を見てその存在に気付く人はいるかもしれない。

　オルドウィッチ（Aldwych）駅は、『Vフォー・ヴェンデッタ（V for Vendetta、2005年）』『空軍大戦略（Battle of Britain、1969年）』で使われている。また、チャリングクロス（Charing Cross）駅の閉鎖区域は、『007 スカイフォール（Skyfall）』のロケ地となった。(c)AFP/Paline FROISSART