【11月16日 AFP】中国競泳の五輪金メダリストで、抜き打ちのドーピング検査を逃れたとして最大8年間にわたる出場停止処分の可能性に直面している孫楊(Yang Sun、ソン・ヨウ)は15日、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に対して、検査に訪れた職員が身分を証明しなかったと主張した。

 ドーピング検査の際に自身の血液サンプルが入った容器をかなづちで破壊した責任を問われている孫は、CASで行われた一日だけの公開ヒアリングに出席し、検査官がプロフェッショナルでなく、手順を無視していたと批判し、「彼らが本当にプロであり、身分証明書を提示していたら、きょう自分たちはここにいなかっただろう」「検査官らは身元の証明すらできなかった。それなのに、どうやって自分の検体の持ち出しを許せるのか?」と通訳を介して語った。

 世界水泳選手権(FINA World Championships)で通算11度のタイトル獲得を果たした中国の国民的英雄で、来年開催される東京五輪の出場を目指している孫は、抜き打ち検査の疑惑に関して1月に国際水泳連盟(FINA)から無罪放免と判断された。しかし、世界反ドーピング機関(WADA)はCASに異議を申し立て、最大8年間の出場停止処分を求めた。

 8年間の出場停止処分が確定すれば、中国で最も成功した競泳選手で27歳の孫のキャリアは、事実上ここで閉ざされることになる。

 今回のヒアリングで、WADAの代理人を務めるリチャード・ヤング(Richard Young)氏は、孫がドーピング検査の書類を破ったり、血液サンプルの容器を破壊したりするなどの「非常に驚くべき」行為に及んだと主張。中国・浙江(Zhejiang)省杭州(Hangzhou)市を抜き打ちで訪れた検査チームは、血液と尿のサンプルを採取して出発しようとしたものの、孫と同選手のスタッフがそれを妨害したという。

「DCO(ドーピング検査官)は、血液サンプルを持ち出そうとした。すると孫楊と彼のスタッフからの反応は、それを断固として阻止するというものだった」

 FINAは1月、孫が昨年9月のドーピング検査で自身の血液サンプルが入った容器をかなづちで破壊したことを確認したが、検査官が適切に身分を証明できなかったとする同選手の主張を認め、反ドーピング規則への違反は不問に付した。

 その結果、孫は7月に韓国で開催された第18回世界水泳選手権(18th FINA World Championships)に出場し、二つの世界タイトルに輝いたが、同選手の競技参加が認められたことに不満を持つライバルからの抗議行動に直面した。

 中でも400メートル自由形で2位に終わったオーストラリアのマック・ホートン(Mack Horton)は、優勝した孫とともに表彰台に上がることを拒否した。(c)AFP/Eric BERNAUDEAU